韓衣裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母なしにして
万葉集の有名な防人の歌の代表作品を解説・鑑賞します。また防人とは何か、東歌の特徴も併せて記します。
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韓衣裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母なしにして
読み:からころも すそにとりつき なくこらを おきてそきぬや おもなしにして
作者と出典
万葉集巻20-4401
現代語訳
衣服の裾に取りすがって泣く子供を置いてきてしまったことだ 母親もいないのに
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万葉集の原文
可良己呂武 須宗尓等里都伎 奈苦古良乎 意伎弖曽伎怒也 意母奈之尓志弖
句切れ
4句切れ 倒置
語彙と文法
- 韓衣(からころも)…「衣」の東国語
- 裾…着物の裾 着物 転じて本人
- 子ら…「ら」は複数を表す接尾語
- 置きてそ…「そ」は係助詞
※係り結び 以下に解説 - 来ぬや…「や」は詠嘆を表す終助詞
- 母…読みは「おも」
解説と鑑賞
防人歌のよく知られた一首。
防人に発つ別れの歌では、両親や、妻との別れを嘆く歌が多いが、この歌では子どもに焦点があり、母親のいない子どもをおいていく、父である男性の嘆きを詠っている。
「韓衣」とは
この時代の衣服は、大陸様式の詰襟と筒袖の衣服であるが、この場合は軍事用の衣服を着ていたと思われる。
「子ら」の「ら」は複数を表すため、子どもが数人いたことがわかる。
なお、「からころも」は助詞や枕詞としても使われるが、ここでは、父である主人公の来ていた着物、そして、主人公の身体を指すとも思われる。
「置きてそ来ぬや」の品詞分解
「置きてそ来ぬや」の部分は、「そ」係り結び。ただし、通常の係り結びは「来ぬる」の連体形となるが、「来ぬ」の終止形で異例の形となっています。
母の読みは東国方言「おも」
「母なしにして」で、子どもたちの母は、子どもを残して亡くなったのであろう。
母の読みは「おも」であり、これは東国方言である。
係り結び解説:
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
防人とは
防人(さきもり)とは、飛鳥時代から平安時代の間に課せられていた税の1つ。
当時は、税金をお金ではなく、現物や労働で納めていた。
防人は、天皇の命により、北九州の警護を担当する仕事、戦争をしたわけではないが、当時の旅行は今よりも危険なものであり、防人の家族たちは、悲しみの情を余儀なくされた。
これらの防人の歌は、大伴家持によって集められ書き留められた。
万葉集の東歌の特徴
万葉集巻十四・古今集巻二十にある和歌を指す。
『万葉集』の東歌は、国名の明らかなもの 90首と不明のもの 140首から成るもので、多くは、東国の方言が使われて詠まれている。
文学上の特色は地方性、民謡性に認められ、粗野で大胆な表現や生活的な素材、豊富な方言使用などにより独自の世界をなしており、「東歌」として区別されて扱われている。
歌人の岡野弘彦は、万葉集での好みは、東歌であるといっており、そのように独特の魅力がある。
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