ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
佐佐木信綱の代表的な短歌作品の現代語訳と句切れ、表現技法について記し ます。
教科書や教材に取り上げられる作品です。
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ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
読み:
ゆくあきの やまとのくにの やくしじの とうのうえなる ひとひらのくも
作者と出典
佐佐木信綱(1872〜1963) 「新月」
現代語訳と意味
秋の終り、薬師寺の塔の上にひとひらの雲が浮かんでいる
語句の意味と文法解説
- ゆく秋…過ぎていく秋 晩秋
- 薬師寺…奈良市にある寺 南都七大寺の一つ
- 上なる…上にある 所在を示す
- ひとひら【一片・一枚】平らで薄いもの一つ。
句切れと修辞・表現技法
- 句切れなし
- 体言どめ
- 「の」のつながりの音韻的効果(以下に解説)
解説と鑑賞
佐佐木信綱の代表的な作品の一つ。
薬師寺の塔の上の空にある雲を詠むことが目的だが、雲は結句の最後に体言止めで置かれている。
助詞の「の」の連続
そこに至るまでに4句を使い、語の全てを助詞の「の」でつなぐことで、雲までの距離が長く、大和の国の空が広く雄大であることと、「ゆく秋」の秋の空の高さを表す。
また、「の」の連続が雲まで一直線である視線の移動をも表している。これは、読み手にとっても同じ効果を表すだろう。
薬師寺という地面にある寺、そして高さのある塔、塔の上と、言葉が繰り出されるところを詠み手が浮かべ、視点が高くなると同時に、最後に雲に至ることになる。
寺と塔、雲という対象物だけではなく、絵のように構図を持たせ、それを体感的に読み手に体験させることに成功している。