滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ 百人一首55番 藤原公任  

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滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ 百人一首55番 藤原公任

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滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ  大納言公任の百人一首の和歌、現代語訳と解説を記します。

この和歌は1月29日の朝日新聞「星の林に」でも取り上げられました。

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滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ の意味

読み:たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なおきこえけれ

作者と出典

作者:大納言公任 だいなごん きんとう(藤原公任 ふじわらのきんとう)

百人一首55番 『千載集』雑上・1035 拾遺集449

※藤原公任の他の歌

小倉山嵐の風の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき『大鏡』三舟の才の和歌の修辞解説

現代語訳:

滝の音は途絶えてから長い歳月が過ぎたけれども、その名前と評判は流れ続けて今もなお伝わっているものだ

・・

一首に使われていることばと文法と修辞法、句切れの解説です。

句切れ

句切れなし

修辞法

係り結び 「こそ・・・けれ」

解説記事:
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説

語の意味

語の意味です

  • たえて・・・漢字は「絶えて」。基本形「たゆ」
  • 久しく・・・長い間 基本形「久し」

「成りぬれど」の品詞分解

  • 「成りぬれど」
  • なる(基本形)
  • ぬれ・・・完了の助動詞「ぬ」の已然形
  • ど・・・接続助詞 逆接の確定条件を表す接続助詞

 完了の助動詞「ぬ」は「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」と活用

 

「滝の音は絶えて久しく成りぬれど」の英語訳

朝日新聞「星の林に」で、ピーターマクミランさんが下のように英訳をしています。

The waterfall has dried up
and not made a sound.
since ansient times
but its fame flows on and on-
and echoed still today.

出典:朝日新聞

 

滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ の解説

藤原公任(ふじわら の きんとう)の百人一首55番御歌。

大納言は役職名。

和歌の背景

この歌は藤原公任が藤原道長の紅葉狩りに同行して大覚寺を訪れた際に詠んだ和歌。

大覚寺の庭は荒廃しており、滝ノ水も流れていなかった。

その風景を元にしながらも、以前の滝の様子を想像したと思われる。

大覚寺は嵯峨天皇の離宮で、滝は神殿の前にあった滝殿に儲けられていた。

大覚寺は御所から移築した建物が多くあり、宮中の雅な雰囲気を醸し出すために、滝も作られたと思われる。

当時の大覚寺の庭園は、その雅な様子に惹かれてたくさんの人が集まったと言われる。

その伝えを踏まえた作者が、荒廃した庭でありながら、巧みにその様子をありのままに呼んでいる。

和歌の鑑賞

「滝の音は絶えて」というのは、水が枯れていること、水が流れてはいないことを表している。

しかし、目には見えない水の流れを補うように「名こそ流れて」と主語を滝の「名」に置き換えて、水の流れを再現する工夫がある。

和歌の音韻の工夫

音韻の工夫としては、初句をあえて「たきのね」とはせず、「たきのおとは」と字余りとし、「きのおは 」と、タ行を重ねて上句にアクセントを加えている。

たきのおとは たえて

「たき」「たえて」と、1句と2句の頭を同じ「た」にすることで、続けて繰り出される「た」の音が流れ続ける水の動きを再現するかのようだ。

さらに、下句では、「名こそ知られて」のような他の語ではなく、流れのない滝に「なこそながれて」と、「流れ」を続けている上に、ここでも

なこそながれて

と「な」の音を2回、そのまえの「成りぬれど」「なおきこえけれ」を加えて計4回繰り返している。

きのおとは えて…

りぬれど なこそがれて 

このような音韻の技巧を含みながら、今はなくなってしまった庭の雅さと公明で会った滝の歴史を歌の中に表現をする工夫は見事というほかはない。

作者藤原公任の他の和歌

澄むとてもいくよも澄まじ世の中に曇りがちなる秋の夜の月

ここに消えかしこに結ぶ水の泡のうき世にめぐる身にこそありけれ

今はただ君が御かげをたのむかな雲隠れにし月を恋ひつつ

「君」は藤原道長。

道長に対して公任が自らの才能を誇示した「三舟の才」の逸話も有名。

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作者藤原公任について

藤原公任 ふじわらのきんとう 966-1041

大納言公任(だいなごんきんとう)に同じ。通称、四条大納言

平安中期の歌人・歌学者。 中古三十六歌仙の一人

宮御所の歌会に出詠、勅撰集に入集。

和歌の他、漢詩、管弦をたしなみ、歌人としてよりも歌論に優れていたと伝えられている。




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