桜花今そ盛りと人は言へどわれはさぶしも君としあらねば
作者大伴池主の桜を読んだ和歌の現代語訳と解説を記します。
大伴家持がこれに返した返歌も合わせてご紹介します。
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桜花今そ盛りと人は言へどわれはさぶしも君としあらねば
読み:さくらばな いまそさかりと ひとはいえど われはさぶしも きみとしあらねば
作者
大伴池主 万葉集4074
現代語訳
桜の花が今が盛りと咲き誇っていると人が言いますが あなたと見られないので私はさびしいばかりです
句切れと修辞
- 4句切れ
- 3句字余り
- 倒置
語と文法
・今そ・・・「そ」は強意の助詞 「今が盛り」の意味
・言えど・・・「ど」は逆接確定条件 「~けれども・~のに」の意味
・さぶしも・・・「も」は詠嘆の終助詞 「なあ。…ね。…ことよ」の意
・君とし・・・「し」は強意の助詞
・あらねば・・・順接確定条件 「ば」 「たら」「なら」の理由を示す。「いないので」の意味
解説
大伴池主が大伴家持に贈った歌。
この歌を含む一連、4073から4075歌には「越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首」越前(こしのみちのくち)の国の掾(じよう)大伴宿禰(すくね)池主が来贈(おこ)する歌三首」との詞書がある。
また、池主が家持に贈った手紙も題詞として添えられている。
和歌の背景
天平18年大伴家持が越中国守として新潟に赴任、同地にいた親戚の池主と歌を詠み合うなど親しい交流をもった。
その後池主が転任となり、これらの歌が家持に贈られた。
一連の和歌
一連の歌は下の3首。
月見れば同じ国なり山こそば君があたりを隔(へだ)てたりけれ 4073
桜花(さくらばな)今ぞ盛りと人は言へど我れは寂(さぶ)しも君としあらねば 4074
相(あひ)思はずあるらむ君をあやしくも嘆きわたるか人の問ふまで 4075
解説
大伴池主と大伴家持の交流は深く、歌会に共に出席して詠み合う他にも、お互いに和歌を何度も贈り合っていた。
同じ大伴姓であることや都を離れている境遇も親近感を誘ったと思われる。
「君」は友人に対する敬称だが、一首はあたかも恋人に贈ったとしても読める内容となっている。
相手と隔たっていることの寂しさを率直に表しており、一連の他の歌も月や桜を共に愛でたいという親愛の気持ちにあふれている。
手紙の題詞部分
越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首 / 以今月十四日到来深見村 望拜彼北方常念芳徳 何日能休 兼以隣近忽増戀 加以先書云 暮春可惜 促膝未期 生別悲<兮> 夫復何言臨紙悽断奉状不備
現代語訳は
「今月の十四日に深見村に到着、あなたのいる北方の地をはるかに拝しました。いつの日も休むことなく御徳を思っておりますが、その上ここは御国の近くなので、にわかにお慕いする気持ちが強くなりました。さらに先のお便りに『春の名残りは尽きないのに、いつ会えるとも期待できない。生きているのに会えない悲しみは何とも言いようがない』とありました。紙を前にして心がつらくなるばかり、拙いお手紙を差し上げることをお許しください」
というもので、先に家持が送った手紙に対しての返答であることがわかる。
大伴家持の返歌
これに対して大伴家持は以下の返歌4首を贈っている。
あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ
我が背子が古き垣内(かきつ)の桜花いまだ含(ふふ)めり一目見に来(こ)ね
恋ふといふはえも名付けたり言ふすべのたづきもなきは我が身なりけり
三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ
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大伴家主について
大伴池主 おおとものいけぬし
奈良時代の官人・歌人。官職は式部少丞。
西端年不明、796年没。
『万葉集』に長短歌の和歌作品29首。
勅撰歌人として『新勅撰和歌集』にも1首が入集されている。