沫雪のほどろほどろに降り敷けば奈良の都し思ほゆるかも 大伴旅人  

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沫雪のほどろほどろに降り敷けば奈良の都し思ほゆるかも 大伴旅人

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沫雪のほどろほどろに降り敷けば奈良の都し思ほゆるかも 作者大伴旅人の短歌代表作の現代語訳と解説を記します。

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沫雪のほどろほどろに降り敷けば奈良の都し思ほゆるかもの解説

読み:あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこし おもおゆるかも

作者

大伴旅人 巻8・一1639

現代語訳

沫雪がまだらに積もっているのをみると、奈の都の雪景色を思いだすことだ

歌の語句

  • 沫雪・・・ぼたん雪とも呼ばれる粒の大きな雪 以下に仮設
  • ほどろほどろに・・・「ほどろ」は斑の意味。2回重ねるのは畳語で旅人のみの用例
  • 降り敷く・・・「降る」「敷く」の合わさった複合動詞
  • 奈良の都し・・・「し」は強意の助動詞
  • 思ほゆ・・・読みは「おもおゆ」。意味は「感じられる。 自然に思われる」

 

解説

都への望郷の念を詠った一首。

雪の降る様子から、思い出す美しい都の姿をまぶたにうかべているという内容。

歌に歌われている要素は少ないが情感のこもった歌となっている。

わかりやすい歌だが、雪を含めた鑑賞には諸説ある。

詞書

この歌の題詞には

「大宰帥(だざいのそち)大伴卿、冬の日に雪を見て 京を憶(おも)ふ歌一首」

と記されている。

歌の背景

大伴旅人は727年の冬の頃に九州の大宰府に赴任となったと推測されている。

大宰府にいたのはそれから後730年に至るまでの3年間ほどで、その間に令和の語源となった梅花の宴は、同じ大宰府にいた山上憶良などと交流を持った。

また、都に直接関連するものではないが、大宰府に赴任した翌年に、旅の疲れからか妻を亡くしており、この歌の背景には望郷だけではなく、都で共に暮らした在りし日の妻の思い出にも結びつくものがあると考えられている。

歌の言葉を詳しく見ていこう。

沫雪とは

誤解されがちな点であるが、歌の「沫雪」は「淡雪」とは違い、沫のように大きく、降るとすぐに溶ける消えやすい軽い雪と随所に解説されている。

ボタン雪、はだれ雪とも呼ばれる種類の雪となる。

「ほどろほどろに」

なので、「ほどろほどろに」という形容が成り立つのであるが、「ほどろ」は斑(まだら)と同じことで、1、薄く積もる 2、斑に積もるの2つの解釈がある。

「ほどろ」は用例があるが「ほどろほどろに」は大伴旅人のみの表現となる。

斎藤茂吉の解釈

斎藤茂吉はこの点について詳しく述べており、2の「斑に積もる」方であると主張している。

山形出身でもあり、茂吉自身がこの形容詞を好んで歌に用いている通り、関心が深かったと思われる。

「降り敷く」の意味

降り敷くというのは、降り積もると同じ意味と考えられるが、上の「薄く積もる」と「まだらに積もる」では、浮かべる雪の勢いが違ってくるだろう。

くれぐれも初句が「淡雪」ではないところに注意したい。

「思ほゆ」の要因

大切なのは、作者は何に追想を誘われたのかという点で、雪の積もっている様子、いわゆる雪景色ではなく、雪の降っている様子の方だろう。

「ほどろほどろに」は雪の降り続いている時間的な経過とともに、雪がみるみる「降り敷かれていくほど続けざまにたくさん降っているということである。

つまり、視界が降る雪に覆われ、ここがどこかがわからないような幻想的な様子になったため、奈良の都への追想が生まれたのである。

深読みすると、単に「思い出した」というだけではなく、場所を都かと錯覚し、時間的にも昔の幸福だった暮しに立ち戻るような思いになったのかもしれない。

歌の内容は一見簡単で類歌も多くあるが、都を遠く離れ、妻にも死に別れた状況、「我が盛りまたをちめやも」で自らの老いを自覚した作者なら、単なる追想にはとどまるものではない。

歌は字数に限りがあって短いが、束の間昔に立ち返るはかない幻想を作り出すファクターとしての雪とその景色を理解の上味わいたい。

斎藤茂吉のこの歌の鑑賞

『万葉秀歌』に記された斎藤茂吉の解説の一部です。

この一首は、前にあった旅人の歌同様、線の太い、直線的な歌いぶりであるが、感慨が浮調子でなく真面目な歌いぶりである。細かく顫(ふる)う哀韻を聴き得ないのは、憶良などの歌もそうだが、この一団の歌人の一つの傾向と看做し得るであろう。―斎藤茂吉著『万葉秀歌』より

万葉集の本

上記の記事の万葉集の和歌の解説や解釈については以下の本を参考に記しています。

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