「反語」は間違いやすい古典の表現で、短歌においてもよく見られる修辞の一つです。
堀辰雄の『風立ちぬ』の「いざ生きめやも」の例もあります。ここでは短歌を例文に、反語表現について解説します。
反語とは
「反語」というのは、本来の意味とは反対の意味を含ませる表現法です。
多くは疑問の形を取り、意味の結論は、反対の「ない」の否定の意味になります。
「ない」という言葉ではなくても、「ない」の否定の意味になるところに注意が必要です。
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反語の例文
反語の例文としては、たとえば、
「そんなことがあり得ようか」
というのは、「ある」という意味ではありません。
「あるだろうか」の疑問の形を取りながら「あり得ない、ない」と強く否定を述べるというのが結論です。
「いざ生きめやも」は反語
反語表現の例文でよく取り上げられるのが、堀辰雄の小説『風立ちぬ』の副題である「いざ生きめやも」のフレーズです。
これは、「いざ生きよう」との意味で使いたかった言葉だと思われますが、
「いざ生きられようか」→「生きられはしない」
というのが、反語本来の意味となります。
要は、このフレーズは、作者の意図には反したものですので、誤りといえます。
堀辰雄に関しては、下の記事を
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反語表現を含む短歌
反語表現を含む短歌・和歌は少なくありません。
複雑な心理表現を表すときには、反語の表現が生きる作品が多くあります。
若山牧水の短歌の反語
幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく
若山牧水の短歌の有名な作品首は、反語表現を含むものです。
「寂しさの終てなむ国ぞ」の部分の意味は、
いくつかの山や川を越えて遠」に行けば、寂しさがはてる国にたどり着けるのだろうか
ですが、「たどりつける」と考える人はいないでしょう。
反語表現を用いて、作者の果てしない寂しさが表現されています。
上の短歌の解説記事:
幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく/若山牧水
寺山修司の短歌の反語
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
寺山修司のよく知られた短歌。
「身捨つるほどの祖国はありや」の「ありや」の部分は「あるのだろうか」ですが、そのような祖国は「ない」というのが、作者の主観です。
そのような心の彷徨が、上句の「霧が深い海」という言葉で視覚的に描写する表現となっているのです。
この短歌の解説:
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司
古文の短歌から反語の例
以下は、古典の短歌作品から、反語表現を含む作品です。
嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな
作者:西行法師
反語の部分は、「月やはものを思はする」の「や…する」の部分です。
「月のせいで物思いとなるのか」と問うように見せながら、実は、恋の悩みであるということを言っているのです。
それによって、恋心を隠しておきたい内面を表しているのです。
現代語訳と意味
「嘆け」と言って、月が私を物思いにかりたてているのだろうか。そうではない、恋の悩みを月のせいとする私の涙なのだよ
この歌の解説:
西行法師の百人一首の和歌 嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな
磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ
読み:しきしまの やまとのくに ひとふたり ありとしおもわば なにかなげかん
「万葉集」より作者不詳の短歌。
「人二人ありとし思はば何か嘆かむ」の部分は、「あなたに似た人が二人あれば嘆くだろうか」の意味ですが、実際には、恋人は一人きりなので、そのためいっそうの深い嘆きを表しています。
現代語訳
しきしまのこの日本のくにに、いとしいあなたが、二人あると思ったならば、どうしてこんなに嘆くでしょうか。二人といないあなたなので、そのあなたに会えないからこそ、こんなに悲しんでいるのです。
この歌の解説:
磯城島の日本の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ【万葉集】
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我れ恋ひめやも
読み:むらさきの にほえるいもを にくくあらば ひとづまゆえに あれこいめやも
作者:大海人皇子(おおあまのみこ)
結句の「恋ひめやも」の「や」の疑問と「も」の詠嘆の合わさった「やも」という表現はよく見かけます。
「恋ひめやも」はこの場合(人妻なのに)「恋したりするでしょうか」の意味で実際はもちろん「人妻であるのに恋をしている」というのが作者の意図をするところなのです。
現代語訳
あの紫草のように匂いたつような美しいあなたを憎いと思うならば、人妻であるのに私がこんな風に袖を振るほど、恋い焦がれたりするものでしょうか
この歌の解説:
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我れ恋ひめやも/大海人皇子
以上、反語表現を含む短歌・和歌をご紹介しました。
自分で詠むときには、やや難しい表現ですが、技法の一つですのでマスターすると表現に奥行きが出ると思われます。