み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも 山部赤人  

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み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも 山部赤人

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み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも

万葉集の代表的な歌人の一人、山部赤人の有名な和歌を鑑賞、解説します。

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み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも

読み:みよしのの きさやまのまの こぬれには ここだもさわく とりのこゑかも

作者

山部赤人 万葉集 6-924

山部赤人の代表作和歌一覧

現代語訳

み吉野のの象山の山あいの木々の梢には、こんなにも多く鳴き騒ぐ鳥の声であるよ

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田子の浦ゆうち出でてみればま白にぞ富士の高嶺に雪は降りつつ 山部赤人

句切れと修辞

  • 句切れなし

語と文法

・象山…吉野離宮の近くにある山

・際…意味は「間」「中」

・木末…読み「こぬれ」。木の梢

・ここだもの品詞分解

「ここだ」は副詞。「こんなにも」の意味。

「も」は強意の序詞

 

解説と鑑賞

山部赤人の2組の吉野讃歌。第1組、長歌と反歌2首からなる歌の、第1反歌になる歌。

吉野の地を賛美したもの。鳥の声と木々の様子から、吉野の生気を伝えている。

鳥の声は、長歌とつながりがあり、その声の騒がしさを離宮の繁栄の象徴として用いている。

島木赤彦の評

島木赤彦は、この歌に関して、

一首の意至簡にして澄み入るところが自ずから天地の寂寥相に合している。騒ぐというてかえって寂しく、鳥の声が多いというていよいよ寂しいのは、歌の姿がその寂しさに調子を合わせるまでに至純であるためである。「万葉集の鑑賞及びその批評」

との評によって、名歌として知られているが、長歌の反歌であるため、長歌と短歌は一体であり「切り離して読むべきではない」。(「万葉の歌人と作品」より)

赤彦はこの歌の寂しさを強調しているが、これは赤彦の提唱した寂寥相に沿った個人の感じ方であり歌の主題はあくまで吉野の繁栄を讃えるところにある。

斎藤茂吉の『万葉秀歌』解説より

一首の意味は、吉野の象山の木立の茂みには、実にたくさんの鳥が鳴いて居る、というので中身は単純であるが、それだけ此処に出ている中身が磨きをかけられて光彩を放つに至っている。

この歌も前の歌のごとく、下半分に中心が置かれ、「ここだも騒ぐ鳥の声かも」に作歌衝迫もおのずから集注せられている。

この光景に相対したと仮定してみても、「ここだも騒ぐ鳥の声かも」とだけに言い切れないから。この歌はやはり優れた歌で。亡友島木赤彦も力説したごとく、赤人傑作の一つであろう。
「万葉秀歌」斎藤茂吉著

なお、結句の「かも」については

結句の「かも」」であるが、名詞から続く「かも」を据えるのは難しいのだけれども、この歌では「ここだも騒ぐ」に続けたから声調が完備した。そういう点でも赤人の大きい歌人であることがわかる。(同)

として、山部赤人の歌人としての力量を高く評価している。

山部赤人の他の和歌

縄の浦ゆそがひに見ゆる沖つ島榜ぎ廻る舟は釣しすらしも(3-357)

武庫の浦を榜ぎ廻る小舟粟島をそがひに見つつともしき小舟(3-358)

我も見つ人にも告げむ勝鹿の真間の手児名が奥つ城ところ(3-432)

沖つ島荒磯の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも(6-918)

若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして鶴たづ鳴き渡る(6-919)

み吉野の象山きさやまの際の木末にはここだも騒く鳥の声かも(6-924)

ぬば玉の夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く(6-925)

玉藻刈る辛荷にの島に島廻(しまみ)する鵜にしもあれや家思はずあらむ(6-943)

島隠り我が榜ぎ来れば羨しかも大和へ上る真熊野の船(6-944)

風吹けば波か立たむと伺候に都太の細江に浦隠り居り(6-945)

明日よりは春菜摘まむと標し野に昨日も今日も雪は降りつつ(8-1427)

百済野の萩の古枝に春待つと居をりしうぐひす鳴きにけむかも(8-1431)

あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも(8-1425)

恋しけば形見にせむと我が屋戸に植ゑし藤波今咲きにけり(8-1471)

山部赤人とはどんな歌人か

山部赤人 (やまべのあかひと) 生没不詳

神亀元年 (724) 年から天平8 (736) 年までの生存が明らか。国史に名をとどめず、下級の官僚と思われる。『万葉集』に長歌 13首、短歌 37首がある。聖武天皇の行幸に従駕しての作が目立ち、一種の宮廷歌人的存在であったと思われるが、ほかに諸国への旅行で詠んだ歌も多い。
短歌、ことに自然を詠んだ作はまったく新しい境地を開き、第一級の自然歌人、叙景歌人と評される。後世、柿本人麻呂(かきのもとの-ひとまろ)とともに歌聖とあおがれた。三十六歌仙のひとり。




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