万葉集の歌風を一言で言い表すのに「ますらをぶり」という言葉がよく知られていますが、万葉集の歌風は「男性的」であるということだけではありませんで、口誦的で古代の信仰の反映など他にも様々な特徴があります。
万葉集の歌風についてまとめます。
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万葉集とは
万葉集とは古代の詩歌集です。
飛鳥時代、奈良時代にまたがる4500首以上を収録、編纂に関わった一人が大伴家持というのがこれまでに伝わっているところです。
万葉集後の歌集との比較
万葉集よりも後の時代は、古今集、新古今和歌集のように、天皇が命じて作られた、勅撰和歌集が主流の歌集となります。
その時代になると、掛詞などの技巧が多用され、歌風も雅でたおやかなものが好まれるようになりました。
そのような歌風の変化を対比するときの言葉で、賀茂真淵が表そうとしたのが、「ますらをぶり」と「たをやめぶり」というものです。
一言でいえば、ますらをは男性を指し、この場合のますらをぶりとは「男性的」であるということ、後者の「たをやめ」は女性のことで、女性的ということです。
いわば、男性と女性との違うのように対照的に語れるほど、万葉集とそれ以後の二つの歌風には大きな違いがあるということになります。
「ますらをぶり」について詳しくは
万葉集の時代区分
万葉集は成立した時代が長く収録された歌も多数であるため、全体が4期に分けられます。
それぞれの時期と特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
4期 | 時代と年 | 代表的な歌人 | |
第1期 | 壬申の乱(672)まで | 額田王 | 素朴な歌・宮廷儀礼の場で口誦 |
第2期 | 平城京遷都(710) | 柿本人麻呂 | 専門歌人の出現・万葉集の最盛期 記載文学へ |
第3期 | 733年まで | 山部赤人・山上憶良・大伴旅人 | 梅花の歌など |
第4期 | 759年まで | 大伴家持・大伴坂上郎女 | 繊細・流麗 東歌・防人歌などの地方の歌 |
万葉集の歌風の特徴
万葉集の歌風の特徴は以下のようにまとめられます。
・口誦(こうしょう)的・前記載的
・歌謡や民謡とのつながり
・古代の人の信仰の反映
・歌の類似と集団性
・相聞は求婚の問答歌
口誦(こうしょう)的・前記載的
万葉集の歌風は、初期には文字に書かれるよりも宮廷儀礼やそれ以外の会合、宴会などで、口頭で舞を交えて詠われるものが多かったことを主軸に成り立っています。
たとえば、書記万葉を代表する歌人の額田王の「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」は、内容は恋愛の歌、相聞ですが、宴会の場で詠まれた歌というのが今の解釈です。
口で詠まれるもので文字に記されたものとは違い、意味の取りやすいもの、歌謡のように調子が良いものなど、文字で書かれたものとはまた別な効果を目指して作られていました。
そのため、細かい技巧などは不要である意味わかりやすい歌が求められていたと思われます。
歌謡や民謡とのつながり
逆に、歌の中には皆で歌っていたものがその後文字に書きとられたというものも含まれています。
作業歌といわれるもので、皆が力を合わせて作業をするときに歌われたのではないかといわれる作品です。
たとえば、後に「東歌」に収録されている「稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ」などは、稲つきの脱穀の作業の時に歌われたと推測されています。
関連記事:
稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ 万葉集東歌
古代の人の信仰の反映
万葉集の一つの特徴は、その呪術的な面や、古代的な自然観や霊魂感など、古代の人の信仰に基づく内容の歌がみられることです。
「言葉に魂が宿る」という言霊信仰を詠った歌はその最たるもののひとつです。
関連記事:
磯城島の大和の国は言霊の助くる国ぞま幸くありこそ 柿本人麻呂【万葉集】
歌の類似と集団性
万葉集の歌は、一人ではなく、同じ言葉を繰り返す目的で作られたものがあります。
本歌取りとはまた違った意味合いの類歌が多いのです。
関連記事:
万葉集の類歌と本歌取りについて 模倣にとどまらない集団と個別性
相聞は求婚の問答歌
恋愛の歌は、そのあとの時代の忍ぶ恋よりも、求婚の歌が圧倒的に多いとされます。
これは、歌によって男女が思いを伝える儀式の会「歌垣(うたがき)」の習慣に依るものとされています。
二人の間でこっそり語るのではなくて、大声で呼びかけるのが、歌垣です。
なので、万葉集の恋愛と求婚は、大っぴらでストレートな表現が目立つ歌も見られます。
記載文学への変化
万葉集は、その後古今集の時代に近づくにつれて、口で歌う歌から、文字で記す歌として変わっていきます。
そうなると、これまでとは違う直截に思いを述べる歌から、大伴家持の「春愁三首」のような気分を伝える歌、枕詞の他にも、序詞など技巧を含んだ歌もみられるようになります。
それとともに、歌の内容も繊細で流麗なものとなります。
このような傾向は、この後の時代の歌ともほぼ同じ流れとなって、残っていくものです。
以上、万葉集の歌風についてまとめました。