富士の山みねの雪こそ時しらね落つる木の葉の秋は見えけり 徳川家康が詠んだ和歌の解説を記します。
この和歌は12月10日の朝日新聞の「星の林に」でピーター・マクミラン氏が取り上げて解説した歌です。
富士の山みねの雪こそ時しらね落つる木の葉の秋は見えけりの解説
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読み:ふじのやま みねのゆきこそ ときしらね おつるきのはの あきはみえけり
現代語訳と意味
富士の山はみねに積もる雪こそ季節はずれだが、木の葉が落ちる様子には秋らしさが見えることだな
作者と出典
徳川家康
句切れと修辞
- 初句切れ
- 3句切れ
- 本歌取り
歌の語句と文法
- 富士の山・・・富士山のこと
- みねの雪・・・山の上に積もる雪 みねは「峰」
- 係り結び・・・「こそ・・・ね」
- 時しらね・・・「ね」は上の「こそ」の結びで打ち消しの助動詞「ず」の已然形
- 落ちる・・・文語の基本形は「落つ」。その連体形
- けり・・・詠嘆の助動詞「だなあ」「ことよ」などと訳す
和歌の解説
徳川家康の自筆短冊が残る短歌。
家康自身が記したとされている
本歌取り
この歌は伊勢物語の
時しらぬ山は富士の嶺(ね)いつとてか鹿子(かのこ)まだらに雪のふるらむ
を踏まえて詠まれた。
本歌取りといってもよいだろう。
本歌との違い
本歌は「夏なのに雪が積もっている」という点に着目した夏の歌であるが、家康の歌は秋の歌である。
一首の内容
家康の歌の内容は、「本歌を踏まえて、みねの雪が一年中積もっているので、それは前の歌が言うように、季節を知らない山である通りだ」というのが上句の部分。
さらに下句の「落つる木の葉の秋は見えけり」で落葉は秋に特有のものだとして、雪が一年中積もる季節を知らないように見える山でも秋が来ているということを表している。
『伊勢物語』の世界
ピーター・マクミランの解説では
この歌は、家康の目の前にあった富士山と『伊勢物語』の世界とが重ね合わされた歌なのである 出典:朝日新聞「星の林に」
として、家康が文学に通じた文武両道の人だったのであろうとしている。
徳川家康の辞世の句
徳川家康の辞世の句は
嬉しやと二度さめて一眠り浮世の夢は暁の空
読み:うれしやと ふたたびさめて ひとねむり うきよのゆめは あかつきのそら
とされています。
富士山の有名な和歌
田子の浦ゆうち出でてみればま白にぞ富士の高嶺に雪は降りつつ 山部赤人
富士のねの絶えぬ思ひをするからに常盤に燃ゆる身とぞなりぬる 柿本人麻呂
富士の嶺に降り置く雪は六月の十五日に消ぬればその夜降りけり 高橋虫麻呂
験なき煙を雲にまがへつつ世をへて富士の山と燃えなむ 紀貫之
人しれず思ひするがのふじのねはわがごとやかく絶えず燃ゆらむ 伊勢
風になびく富士の煙の空にきえてゆくへも知らぬ我が思ひかな 西行
富士の嶺にぬなれの雪のつもり来ておのれ時しる浮島がはら 藤原定家
見わたせば雲居はるかに雪白し富士の高嶺のあけぼのの空 源実朝