白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ
若山牧水の代表作短歌の1つ。秋の夜の、しみじみとしたお酒の風情を詠ったものです。
マツムシの短歌と合わせて、若山牧水の秋の短歌2首をご紹介します。
酒好きの牧水の歌なので、どちらもお酒とも関連のある作品です。
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若山牧水の誕生日 8月24日
きょう、8月24日は若山牧水の誕生日です。
家の脇に不思議な虫を見つけたので写真に撮りました。これまで一度も見たことのない虫です。
皆さんは何という虫かご存知ですか。
調べてみたら、「アオマツムシ」というのだそうで、若山牧水のマツムシの短歌を思い出しました。
若山牧水の有名な歌はこちらから
ちんちろり男ばかりの酒 の夜をあれちんちろり鳴きいづるかな
この歌は若山牧水の第一歌集『海の声』にあるものです。「紀の国青岸にて」と付記があります。
歌の背景
牧水が早稲田大学4年生の時、最後の夏休みを故郷で過ごし、8月末に東京へ帰る途中のことです。
神戸から大阪、和歌山、奈良と旅をしながら9月10日に帰京。
この歌はその旅の、和歌山に滞在した際の作品と考えられます。
若山牧水を迎えるために、文学仲間が集まって、酒席となったのでしょう。
マツムシの歌の意味
そこで、ふと牧水の耳に虫の鳴き声が聞こえ、「あれ、ちんちろりが鳴き出したぞ」と耳を澄まして聞いている。
その鳴き声こそが、マツムシの特徴ある鳴き声です。
季節は初秋。秋の夜の旅の途の酒は牧水にとってはおいしかったのではないでしょうか。
しかも男ばかりの酒の夜は時折静かであって、庭先の草むらからマツムシの美しい声が聞こえてくる。
「ちんちろり」と唐突に虫の鳴き声で始まる短歌は、牧水がそれを耳にした状況そのものであり、まさに突然「鳴き出した」ことの描写でもあります。
「あれ」は、そのまま、「あれ」「おや」といった注意を向けた様子。
そして、「鳴き出づるかな」の結句が、「男ばかり」につながって、その場の様子がわかるように収められています。
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ
読み:「しらたまの はにしみとおる あきのよの さけはしずかに のむべかりけれ」
同じく秋の夜の酒の短歌。しみじみとした秀歌で、若山牧水の短歌の中でも有名なものです。
一首の意味
「白玉の」は枕詞ですが、この場合「白い歯」ということで、その白い歯にすら沁みとおるような味わいの秋の夜の酒は、心静かに飲んでその風情を楽しもう、という意味の歌。
牧水は酒が好きであり、後年の牧水の娘の述懐によると、きわめて「きれいな酒」だったということで、酒宴のようなにぎやかなものよりも、まさに酒をたしなむような飲み方を好んでいたのかもしれません。
表現技法としては、「白玉の」「しみとほる」「しづかに」と「し」を3回重ねており、歌の内容にもふさわしく美しい調べでまとめています。
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まとめ
秋の夜は虫の声に耳を傾けながら、静かな心持ちにて歌を詠んでみたくもありますね。
もちろん、お酒の好きな方は、どうぞたしなまれてください。