与謝野晶子『みだれ髪』短歌10首 現代語訳付き意味も解説  

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与謝野晶子『みだれ髪』短歌10首 現代語訳付き意味も解説

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与謝野晶子の『みだれ髪』は、刊行と同時に大きな反響を巻き起こした与謝野晶子の第一歌集です。

『みだれ髪』がどのような歌集か、『みだれ髪』の代表的な作品10首に意味と現代語訳を当ててご紹介します。

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与謝野晶子『みだれ髪』


与謝野晶子「みだれ髪」は、刊行と同時に大きな反響を巻き起こしました。

それは、内容が恋愛を主題とした短歌が多く、当時としてはたいへんに大胆な、センセーショナルな内容であったからです。

しかし、与謝野鉄幹との恋愛があったから、この歌集の作品は詠まれたのです。よって、『みだれ髪」は夫となる与謝野鉄幹との愛の記録でもあります。

その視点から与謝野晶子の「みだれ髪」で、鉄幹と結ばれるまでの愛の短歌を時間順に、意味と現代語訳を当ててご紹介します。

与謝野晶子の当時センセーショナルな内容「みだれ髪」、元々が空想的な傾向の強い明星派ですので、実体験そのままかどうかはともかくとして、事実がベースになっていることは間違いないでしょう。

与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」を含む代表作品については下の記事に
与謝野晶子の代表作品一覧 短歌と詩

「みだれ髪」の意味は?

そもそも、歌集題名の「みだれ髪」の意味とは、どのようなものでしょうか。

当時の女性は長い髪を束ねて、高く結い上げるというヘアースタイルをしていました。

朝になると、寝ている間に髪型が崩れてしまうのは誰も同じなのですが、それを、恋人と過ごした夜が明けたあとの「みだれ髪」と焦点化したものが、この場合のみだれ髪の意味です。

単なる崩れではなくて、そこにもっと官能的で叙情的な意味を込めた言葉が、この「みだれ髪」なのです。

「みだれ髪」を含む歌

歌集『みだれ髪』を読んでいくと、「狂ひの子われに焔ほのほの翅はねかろき百三十里あわただしの旅」といううたがありますが、これは晶子が鉄幹に会いに上京をしたことを示す歌があります。

恋人にあわただしく会いに行ったそのあとに「うつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今」と続くので、晶子の「願い」は上京の後において遂げられたことが明らかです。

さらに、歌集題名にもなった「みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす」の歌がここにあり、その「願い」とは、晶子が鉄幹とこの時点で一夜を共にしたことを指すことになるでしょう。

それを指し示す具体的な事物の一つが「みだれ髪」というアイテムであり、それが歌集のタイトルなのです。

 

与謝野晶子『みだれ髪』現代語訳

二人の恋の道筋をたどるべく、恋愛の短歌を時間順に一首ずつ、現代語訳を当ててみます。

髪五尺ときなば水にやはらかき少女(をとめ)ごころは秘めて放たじ

現代語訳:
5尺あるこの髪を解いて浸すと、水に柔らかに髪がただよう。その少女の恋の思いは、心に秘めて明かしますまい

与謝野晶子は長い髪が自慢であり、この歌集のタイトルも「みだれ髪」なので、髪をモチーフにした歌が多く見られます。

 

その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな

現代語訳:
20歳になったばかりの乙女、櫛で梳くと流れるようなふさふさした黒い髪の青春のうつくしさよ

こちらも髪をモチーフに詠み込んだ短歌。

この「その子」というのは、与謝野晶子自身のことです。

髪のこととは言え、自分に属するものを美しいとはなかなか言えないものですが、晶子は臆するところがありません。

 

何となく君に待たるるここちして出でし花野に夕月夜かな

読み:なにとなく きみにまたるる ここちして いでしはなのに ゆうづきよかな

作者と出典

与謝野晶子『みだれ髪』

現代語訳

何となくあなたが待っているような気がして、秋の花が咲き乱れる野に出てみたら、月が夜空に浮かんでいた

 

狂ひの子われに焔の翅かろき百三十里あわただしの旅

読み:くるいのこ われにほのおの はねかろき ひゃくさんじゅうり あわただしのたび

現代語訳

心が狂った娘となった私に、激情の炎の羽根にとっては軽くたやすい130里の急ぎの旅なのです

解説

与謝野晶子は大阪に住んでいたわけですが、鉄幹に会いたさに東京に飛ぶ、その時の様子を詠ったものです。

 

うつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今

読み:うつくしき いのちをおしと かみのいいぬ ねがいのそれは はたしてしいま

現代語訳

命がなくなってしまってもいいと思った恋だが、そのうつくしい命を惜しいと神が言ったので、願いが叶っても今がある

解説

ややわかりにくい歌なのですが、そのような意味だと思います。

鉄幹との思いを遂げた晶子。本当の始まりはここからなのです。

 

みだれ髪を京の島田にかへ(え)し朝ふしてゐ(い)ませの君ゆりおこす

読み:みだれがみを きょうのしまだに かえしあさ ふしていませの きみゆりおこす

現代語訳

乱れた髪を島田に結いなおして、朝にそれまで寝ていてくださいね、と言った相手の君を揺り起こす

解説

与謝野鉄幹と一夜を共にした、その朝のことを詠んでいるのでしょう。

興味深いことに、この「みだれ髪」は恋愛の成就のメタファーでもあって、それだから題名に取られたということもあるのかもしれません。

当初は、鉄幹には妻が居ました。とすると「みだれ髪」は、「私たちの恋愛は成就されましたよ」という宣言でもあるわけです。

 

君さらば巫山(ふざん)の春のひと夜妻 またの夜までは忘れいたまへ

読み:きみさらば ふざんのはるの ひとよづま またのよまでは わすれいたまえ

現代語訳

さようならあなた。巫山の春の一夜妻として、またの夜までは忘れていてください

解説

巫山とは、楚の懐王が昼寝の夢の中で巫山の神女と契ったという故事から、男女が夢の中で結ばれることを指します。

これは、晶子が手紙で鉄幹に書き送った歌で、実際はもちろん忘れてほしいどころではなかったでしょう。

与謝野晶子が、これほどセンセーショナルな歌を詠んで世に放ったのは、一つには私を妻として認めてほしいということのプロモーションでもあったのだと思います。

おそらく、当人としては必至な思いがあったのでしょう。それが、与謝野晶子の才能を開花させたのです。

 

病みませるうなじに細きかひな巻きて熱にかわける御口を吸はむ

読み:やみませる うなじにほそき かいなまきて ねつにかわける おくちをすわん

現代語訳

腕枕して、病んでいらっしゃるあなたの乾いた口を吸ってしまいたい

解説

風邪を引いたという鉄幹に送ったもので、お見舞いの歌なのでしょうか。

それにしても、結婚しているわけではない、妻のある男性に対して、何とも大胆な歌に思えます。

しかし、考えてみると、妻であればそばにいられるのに、晶子はそのような時にも鉄幹と共にいられない。看病をしてあげたいという、そのような意図もあったのではないでしょうか。

 

春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

読み:はるみじかし なんにふめつのいのちとぞ ちからあるちを てにさぐらせぬ

現代語訳

人生は永遠ではないのだからと、自分の張りのある胸にあなたの手を導いた

解説

相手の与謝野鉄幹に「家庭や妻がある」などという矮小な見識を越えて、命の短さを説く晶子。

初句切れといい、二句の強意、「ちからある」の意志の強さを同時に示す、乳の形容。

「さぐらせぬ」の能動性が、晶子の主導する姿勢を表しています。この時代の女性には画期的なことだったでしょう。

これほどのたくさんの歌が短期に生まれたのは、やはり恋愛が、それも道ならぬ恋を何とか通そうと、鉄幹に向けて書き送ったことが背景にあるでしょう。

その歌を見る相手が、同時に恋愛の相手であることから、おのずから歌も良きものとしようという鍛錬がなされ、歌を読むことでまた恋慕の意思も確固たるものともなったと思われます。

 

やわ肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

読み: やわはだの あつきちしおに ふれもみで さびしからずや みちをとくきみ

作者と出典

与謝野晶子『みだれ髪』

現代語訳:

この柔らかい肌の熱い血のたぎりに触れてもみないで、寂しくはないのですか。 道学を語っているあなた

 

 

与謝野晶子歌集『みだれ髪』背景

『みだれ髪」が出たのは、作者名は与謝野姓になる前で、まだ「鳳(ほう)晶子」となっていました。

明治時代のことで、奔放大胆な官能的な表現と、解放された自我の感情過多の表白は世を驚かせ、ほとんどスキャンダルめいた印象を与えたので、賛否両論の渦に巻き込まれたといいます。

けして、最初から高い評価をストレートに得たというわけではなかったのです。

というのは、当時の新詩社の歌は、独特な新しいスタイルを持ち、その頃の晶子の短歌も、新詩社の同人同士でしかわからないような、晦渋な比ゆ的、隠語的表現の空想歌が多く、自己陶酔の大げさな身振りに満ちていました。

その難解さが、当時この歌集の斬新な魅力でもあったのですが、のちに晶子は、『みだれ髪」の歌の改作を行いましたが、同時にこの歌集の魅力を切り捨ててしまうことにもなったようです。

当時の歌壇には、自然主義、写実主義の派が明星派との対極にあり対立をしていたわけですが、派の違いはあれ、与謝野晶子の才能は疑うべくもないでしょう。

 

俵万智さん訳がついた『みだれ髪』。こちらは新版です。

「燃える肌を抱くこともなく人生を語り続けて寂しくないの」

与謝野晶子の名作を、俵万智が短歌で超訳! 百年前の恋の陶酔が甦る。


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