天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ
百人一首の僧正遍昭の有名な和歌、代表的な短歌作品の現代語訳と句切れと語句を解説、鑑賞します。
スポンサーリンク
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ
読み:あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめのすがた しばしとどめん
作者と出典
僧正遍昭(そうじょうへんじょう)
・百人一首の12番目の歌
・古今和歌集 17-872
現代語訳と意味
空を吹く風よ、雲の中の通り道を吹き閉じてくれ。この美しい天女たちの姿をしばらくとどめておこうと思うから
句切れ
2句切れ
語と文法
・天つ風・・・「天つ」は連語で「天つ」の形で「天つ風」「天つ雁」「天つ御空」などと用いる。意味は、大空。天上の世界。また、手の届かない遠い所。
・閉じよ・・・基本形「閉づ」の命令形
・しばし・・・「しばらく」「少しの間」の意味
・とどめむ・・・「とどむ+む(未来の助動詞の意志)」 ~しようと思う
解説と鑑賞
六歌仙の一人である僧正遍昭(そうじょうへんじょう)が詠んだ和歌で、歌っている天女というのは、五節の舞姫のことです。
宮中の行事、大嘗祭で五節(ごせち)の舞が舞われた際、その舞姫を天女に見立てて、 大空の風に見かけたというものです。
天女が去ってしまわないように、風に向かって、空の道を雲で覆って天女が進めなくしてくれよ、と呼びかけます。
雲が道を閉ざせば、天女があと少しとどまって待ってくれる、その姿をいつまでも見ていたい、というのが歌の意味です。
幻想的な世界を流麗な調べで詠んだ歌ですが、美しいものへの憧憬と共に、そのうつろいにまつわる一抹の寂寥も見て取れます。
五節の舞とは
五節の舞は、舞姫が、5度袖を翻すという仕草をして、そのあとは舞台裏に退出をするということになっていました。
7世紀の終わりに天武天皇が、吉野に行幸した折に、天皇のもとへ、天女が降って袖を5度翻したという言い伝えがあったためです。
それを、天皇が「いつまでも引き留めておきたい」といったことから、その言葉を即座に歌に取りこんで、上のように読んで披露しました。
僧正遍昭(そうじょうへんじょう)はそのように、才気にあふれた人物で、歌も優れていたため、六歌仙に選ばれています。
僧正遍昭について
僧正遍照(そうじょうへんじょう)
814~890。遍照とも記す。平安初期の歌人。六歌仙・三十六歌仙の一人。俗名良岑宗貞。桓武天皇の孫。
寵遇を受けた仁明天皇の崩御により出家、天台宗僧正の職を務めた、歌僧の先駆の一人。
遍照の他の和歌
たらちねはかかれとてしもむばたまのわが黒髪を撫でずやありけむ
※僧正遍照の歌について詳しくは