万葉集に萩の和歌はなぜ多い? 有名な作品を紹介  

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万葉集に萩の和歌はなぜ多い? 有名な作品を紹介

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万葉集に萩の和歌は何ぜ多いのでしょうか。

萩の花は万葉集に140首あり、和歌に詠まれた数がもっとも多い植物です。

萩の有名な和歌と萩の歌の数が多い理由を合わせてご紹介します。

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万葉集に最も多い植物は萩

万葉集に詠まれた植物で最も多いものは、梅や桜ではなくて、萩と、萩の花です。

ハギで141首、ウメ118首、マツ79首、タチバナ68首、サクラ50首、アシ50首、スゲ49首、ススキ47首となります。

1位 ハギ 141首
2位 ウメ 118首
3位 マツ 79首
4位 タチバナ 68首
5位 サクラ 50首
6位 アシ 50首
7位 スゲ 49首
8位 ススキ 47首

このうち、現代で短歌に詠まれてもいいと思うような植物は、梅と松、桜でしょう。

草としては、8位のススキも、現在も比較的多く詠まれていますが、その他の植物は花も目立つわけではない、比較的地味な植物といえます。

たとえば、萩に比べて、花も大きく色の濃い、椿などは、それほど詠まれていないというのも不思議な点かもしれません。

 

万葉集になぜ萩が詠まれたのか

万葉集には、なぜそれほど萩が多く詠まれたのでしょうか。

はっきりした理由はわかっていませんし、調べたところでは定説もないようです。

屋外で一般的にみられる植物であったのはもちろんのこと、秋の七草に選ばれる通り、繊細で、赤い色合いが美しく人々に好まれるものだったこと。

また、多くの詩歌が生まれる「秋」に萩の花が咲くところから、「秋萩」として親しまれ、題材になりやすかったという理由も考えられます。

萩の花は女性の象徴

もう一つは、萩の花が女性の象徴として扱われているという点です。

特に男性を表す「鹿」と対になる物として扱われ、歌の中では鹿と並べることで相聞の歌となっている作品があるということです。

たとえば、下の和歌

わが岡にさ雄鹿来鳴く初萩の花妻とひに来鳴くさ雄鹿 巻8-1541

作者は、令和の語源ともなった文章の書き手である歌人、大伴旅人。

「鹿」が夫、「萩」が妻の象徴として扱われていることがわかります。

「萩」の語源の「芽子」

万葉集は、万葉仮名と呼ばれる漢字をひらがなの代わりとして扱う言葉で記されましたが、「萩」という漢字が使われるようになったのは後年のことで、「芽子」と記された上で、「ハギ」と発音される、当て字が用いられています。

この「芽子」は「妻子のこと」でもあったということが、同志社女子大学の解説にあります。

「めこ」は「妻子」と同音(言語遊戯)になります。要するに「芽子」=「妻子」でもあったのです。だからでしょうが、「萩」は女性・恋人に喩えられ、「秋萩の妻」「萩の花妻」と詠まれています。―https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/14228

「萩と鹿」の組み合わせ

この「萩と鹿」の組み合わせは、万葉集より後の時代の、清少納言『枕草子』においても、取り上げられています。

萩、いと色深う、枝たをやかに咲きたるが、朝露に濡れてなよなよと広ごり伏したる、さ牡鹿の分きて立ち馴らすらんも、心ことなり―清少納言『枕草子』130段

「萩と鹿」が対となり、萩の近くにいる鹿が、萩に恋愛感情を持っているかのように描かれるのは、実際にも鹿が萩の若芽を食べに萩の近くにいることが多かったためだと言われています。

この「萩と鹿」の組み合わせとそのイメージはは、広い年代に渡って、ずっと受け継がれていたことがわかります。

万葉集の萩の花の代表的な和歌

万葉集の萩の花の代表的な和歌、秀歌は、斎藤茂吉が『万葉秀歌』で取り上げたものが下のようになります。

白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競きほひて萩の遊びせむ(巻十・2173) 作者不詳
秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも(巻十・1595)大伴宿祢像見
秋萩を散り過ぎぬべみ手折り持ち見れども不楽(さぶ)し君にしあらねば(巻十・2290〕作者不詳
秋萩の枝もとををに露霜おき寒くも時はなりにけるかも(巻十・2170)作者不詳
萩が花咲けるを見れば君に逢はず真も久になりにけるかも(巻十・2280)作者不詳
百済野の萩の古枝に春待つと居をりし鶯鳴きにけむかも (巻八・1431) 山部赤人
秋萩の散りのまがひに呼び立てて鳴くなる鹿の声の遙けさ  (巻八・1550)湯原王
秋萩は咲きぬべからし吾が屋戸の浅茅が花の散りぬる見れば(巻八・1514)穂積皇子
何すとか君を厭はむ秋萩のその初花の歓しきものを(同・2273)作者不詳
真葛原なびく秋風吹くごとに阿太の大野の萩が花散る (巻十・2096) 作者不詳
秋萩の下葉の黄葉花につぐ時過ぎ行かば後恋ひむかも(巻十・2209)作者不詳

優れた歌人である斎藤茂吉の選んだものは、上記に述べた「萩と鹿」の定型イメージを扱ったものは、上の11首のうちの1首のみです。

このうち、2首を除いて、その他のものは皆「秋萩」として、秋の花としての萩を詠んだものです。

万葉集のうち、8巻と、10巻は、春夏秋冬の季節ごとに雑歌と相聞歌とに分けて配列されています。

万葉集の歌に萩の花が多い理由として考えられる大きな理由は、「萩と鹿」から、萩に女性のイメージを重ねやすく、恋愛の歌の題材とされたこと、そして、花の少ない秋には、萩の歌が多く詠まれたということも考えられます。

他の秋の花と比べた場合の萩

ちなみに、山上憶良のあげる、秋の七草は

萩の花尾花葛花(くずはな)なでしこの花おみなえしまた藤袴(ふじばかま)朝顔の花

最後の桔梗のことをいったという説、牽牛子(けんごし)、木槿(むくげ)の諸説があり、オミナエシは、黄色、フジバカマは白のそれぞれ小さな花をつける植物です。

最初の、萩と葛、それとナデシコは、赤系統の色の濃い花をつけます。

萩は晩秋にかけて花期が長い

萩と葛のそれぞれの花期についていうと、萩は、今でいう初夏から晩秋まで、葛は、初秋にかけて咲く花といえます。

 6/ 5 ~ 10/末頃
8/15 ~ 9/末頃

萩が多く詠まれた理由は、この花期の長さにもあるかもしれません。

晩秋の寂しい時期、万葉人の心のよすがとなった萩の花、その萩に思う女性を重ねた和歌が出来たのも不思議ではないように思えます。




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