世間を憂しと恥しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
山上憶良作の「貧窮問答歌」の反歌として知られる有名な和歌の現代語訳と解説を記します。
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世間を憂しと恥しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
読み: よのなかを うしとやさしと おもえども とびたちかねつ とりにしあらねば
現代語訳:
世の中は憂いが多い、消え入りたいほどだと思ってみても、飛び去ることもままならない。鳥ではないのだから
作者と出典:
山上憶良
万葉集 巻8 893
山上憶良の万葉集の代表的な和歌 子どもへの愛と貧しさへの共感
語の解説:
- 憂し…読み「うし」の形容詞。意味は、「つらい」
- 恥し…読み「やさし」の形容詞。意味は「身も細るほどだ。つらい。肩身が狭い。消え入りたい。たえがたい」
「飛び立ちかねつ」の品詞分解
- 飛び立つ 飛ぶ+立つの複合動詞の連用形
- かねつ…基本形 かねる「兼ねる」
- 意味は「ある事情が働いて、そうしようと思ってもしにくい」
「鳥にしあらねば」の品詞分解
- 「し」は強意の助詞
- あらねば…動詞「をり」打消の助動詞「な」の已然形
- ば…接続助詞
句切れと表現技法
- 4句切れ
- 倒置
- 反復
解説と鑑賞
山上憶良の長歌「貧窮問答歌」の反歌の歌。
「貧窮問答歌」について
貧窮問答歌は、貧者同士の対話という形を歌に詠んだもので、内容は、律令制の下、苦しい生活にあえぐ農民の姿が具体的に描かれたもので、粗末な家の寒さや、貧しいぼろぼろの寝具に飯も食べずに震えていると、里長が鞭を持ってやってくる、そのような生活の様子を具体的に描写して嘆きを訴えるものとなっている。
その後半
…竈かまどには 火気吹き立てず 甑には 蜘蛛の巣かきて 飯炊かしく ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端切ると 云へるが如く 笞杖(しもと)執る 里長さとをさが声は 寝屋処(ねやど)まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世の中の道
子の結句の「かくばかり すべなきものか 世の中の道」(これほどまでも、どうしようもないものなのか、世の中の道は)、反歌はこれを受けて、「その苦しみから逃れるすべはない」とう結びの歌となっている。
結句の、「鳥はその状況から翼を以て脱し得るが、飛べない人である私は耐え忍ぶほかはない」というのが、主要な意味である。
山上憶良は、人間愛を表した歌人であるとも言われており、他の歌にも特徴が強く表れている。