ピアノの短歌 近代~現代短歌より  

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ピアノの短歌 近代~現代短歌より

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ピアノの短歌にはどのようなものが思い出されるでしょうか。

きょうの日めくり短歌は、ピアノ調律の日にちなみ、ピアノを題材に詠んだ短歌をご紹介します。

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ピアノの短歌

きょう4月4日はピアノ調律の日。

国際ピアノ調律製造技師協会によって1993年に制定されました。

4月4日にした由来は、4月を英語(April)にしたときの頭文字が調律の基準音のラの音、英語やドイツ語のAであること。

そしてもう一つ、ラの音の首端数が440ヘルツであることから、4日が調律の日に決められたそうです。

ちなみに今のコンサートホールのピアノは、440よりも数ヘルツ高めに調律されています。

きょうは、続いてピアノの短歌をご紹介していきます。

 

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ

作者塚本邦雄の有名な歌。

「液化してゆく」は比喩と思われますが、がさながら現代絵画のような視覚的な効果を担います。

意味はなかなか難しいところなのですが、ピアノが液体になると作詞家の文字通りよりどころがなくなっていくわけです。

そもそも、ピアノは伴奏なわけで、作詞家は演奏はピアノを恃まなければなりません。

「凭りかかられて」にはそのような意味があるとすれば、民衆を扇動する革命歌は、民衆の後ろ盾がなければ歌われないし成り立たない。

革命の理想が危ういことを風刺している歌のように思われます。

もちろん政治的な意図ではなく、カリカチュアを視覚化した歌のように思えます。

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うしろ手に墜ちし雲雀をにぎりしめ君のピアノを窓より覗く

作者は寺山修司。

「雲雀」はひばり。猟銃で撃ってきた鳥の死骸を背中に隠しながら、ピアノを弾く少女ではなくピアノそのものと楽器がある部屋を覗いているのです。

なぜ「君」がいないのか。

おそらく、雲雀が「君」の代替物だからではないでしょうか。

君が既に我がものであれば、部屋の中にピアノを弾く君は不在なのです。

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ただ浄き娘(こ)のピアノ曲情熱のこもり来ん日を微かにおそる

作者:安国世

父の立場から娘のピアノの音に耳を傾けています。

まだ少女である娘の奏でるピアノはたどたどしく、どこか退屈なのでしょう。

情熱的である演奏は望むべきところなのですが、父は、それとは違う理由でその平穏を願うのです。

 

をさな子の片手して弾くピアノをも聞きていささか楽む我は

作者:森鴎外

ピアノというと息子でなく娘かと思いますが、長女が作家の森茉莉さん、その下が小堀杏奴さんどちらかの奏でるピアノかもしれません。

片手だけのピアノですのでまだまだといえますが、それでも聞いていて楽しいというのですから、作者森鴎外は意外に子煩悩で会ったことがこの歌からもわかります。

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洋館の椿をゆする疾ち風ピアノ鳴りつつ弾音はやし

作者は中村憲吉。出典は「林泉集」。

洋館とあるので通りすがりに聞くピアノの音でしょう。

弾音というのは、同じ音を何度も続けて弾くことです。

外を吹く疾風と音を組み合わせて一つの物としてとらえる情景が歌の中には成立します。

 

赤椿はやちの垣に光りけりピアノの止みしたまゆらの音

こちらは音の途切れを捉えます。

「たまゆらの音」というのは、ピアノのない時に聞こえる外の音でしょう。

そこまでピアノの音が大きいわけではありませんが、作者の注意が拡散していくというその変化をとらえています。

動くものではなくて、文字通り紅一点のようにピン止めされ、静止した椿の赤。

それがが聴覚の前の視覚として置かれており、印象的な情景です。

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「春」はまた古きピアノをかいさぐり白くさみしく泣きいでにけり

作者は北原白秋。明治45年の初期の作品で。

感傷的な白秋の詩のような短歌です。

春のもの悲しさに主題があります。

短歌としてはともかく白秋らしい情緒のうかがえる作品です。

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指頭もて死者の瞼をとざす如く弾き終へて若きピアニスト去る

作者大塚寅彦。出典は『刺青天使』より。

上句は演奏の比喩なのですが、なんとも言えない不思議な感じがあります。

通常演奏会のピアノ曲の最後の極は華やかにフォルテシモで終わる曲が選ばれることが多いのですが、この場合はそうではなかったということですね。

 

今日はピアノ調律の日にちなみ、ピアノの短歌をご紹介しました。

それではまた明日!

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