世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも
源実朝の「金塊集」の有名な代表作の和歌より、百人一首にも選ばれた実朝の短歌の現代語訳と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも
読み:よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも
作者と出典
源実朝 (みなもとのさねとも) 作者名は 鎌倉右大臣実朝
金塊集(きんかいしゅう) 『新勅撰集』 小倉百人一首93
現代語訳と意味
世の中が変わらずあってほしい。波打ち際を漕いでゆく漁師の小舟が、舳先(へさき)にくくった綱で陸から引かれている、ごく普通の情景が切なくいとしい。
今日の紀行に出てきた #実朝くん の歌碑、鎌倉海浜公園坂ノ下地区内にもあります❗️
百人一首の「世の中はつねにもがもな なぎさこぐあまの小舟の綱手かなしも」です。
歌碑の台座は船、板は帆、手前は波をあらわし、宋に渡ろうとしていた実朝の夢を表しています。#鎌倉殿の13人#鎌倉殿の十三人 https://t.co/sIv9QaRTKv pic.twitter.com/9mmkeg01Z2
— (@KINJI71129596) October 16, 2022
関連記事:
源実朝の和歌代表作品10首 「金塊和歌集」より
句切れと修辞 表現技法
2句切れ
常にもがもな
・常に 形容動詞「常なり」の連用形
意味「永遠に変わらない」
・もがも(願望の終助詞)+な(詠嘆の係助終)
「常にもがもな」で、「永遠に変わらないでほしい」の意味。
海人
海人(あま) 漁師のこと
綱手
綱手 読みは「つなで」
舟の先に立てた棒に結びつける麻の綱のこと
小舟
小舟 小さい船 読みは「おぶね」
かなし
漢字は「愛し」
心にしみてあわれである様
解説
「船」という題名のある和歌で、万葉集にも似た歌があり、万葉調にまとまっている。
綱手は、漁師の網のことであるが、それがゆっくりと浜を移動していく船に見える。
船には、それをこぐ漁師の姿も見える。
それらの景色を愛惜して、しみじみと悲哀に至った気持ちを「かなし」と表現した。
万葉集と古今集の類似の歌
源実朝がこの歌を読むに当たって、影響を受けたと思われる歌は下の通り
万葉集393
「世の中は常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば」
古今集1088
「みちのくはいづくはあれど塩釜の浦こぐ船のつなでかなしも」
斎藤茂吉の一首評
斎藤茂吉の、この歌の評は以下の通り。評論「源実朝」より
(源実朝は上の本歌取りの元歌から) おそらく実朝は、そういう歌を読んで、それのいいところを理解し、それを心に銘記していたに相違ない。しかしかくのごとき本歌ともみなすべき数首の歌を知っていても、この一首のごときは堂々たる風格のものではあるまいか。
特に小倉百人一首の中にあって読み味わえると、特別の光を放つように思える。
源実朝の歌人解説
源実朝 みなもとのさねとも
または 鎌倉右大臣 かまくらのうだいじん
源 実朝(みなもと の さねとも、實朝)は、鎌倉時代前期の鎌倉幕府第3代征夷大将軍。源頼朝の子。
将軍でありながら、「天性の歌人」と評されている。藤原定家に師事。定家の歌論書『近代秀歌』は実朝に進献された。
万葉調の歌人としても名だかく、後世、賀茂真淵、正岡子規、斎藤茂吉らによって高く評価されている。歌集『金槐和歌集』。
源実朝の他の代表作和歌
世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも 百人一首93
いとほしや見るに涙もとどまらず親もなき子の母を尋ぬる 608
大海の磯もとどろに寄する波われて砕けて裂けて散るかも 693
炎のみ虚空に見てる阿鼻地獄ゆくへもなしといふもはかなし 615
くれないの千入(ちしほ)のまふり山の端に日の入るときの空にぞありける 633