「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生」栗木京子さんの苦しいまでに切ない恋愛の短歌、教科書にも掲載されているこの歌をあらためて味わってみようと思います。
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観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
現代語での読みと発音:
かんらんしゃ まわれをまわれ おもいでは きみにはひとひ われにはひとよ
現代語訳:
観覧車よ、どうぞとまることなく回り続けてほしい。
※作者 栗木京子の他の短歌は
関連記事:
栗木京子短歌代表作品 第一歌集『水惑星』他
句切れと表現技法
・「観覧車」での 初句切れ
・「回れよまわれ」 の「まわれ」は命令形。そこで2句切れ
・「君には一日」ので4句切れ
・「回れよまわれ」は 反復
・「君には一日」「我には一生」は対句
・最後の「一生」は名詞なので 体言止め
短歌の語句の解説
「回れよまわれ」の反復、繰り返しが、めくるめく恋の思いを伝えています。
「想ひ出」の「ひ」は旧かなづかいというもので、音は「想い出」と同じく、「おもいで」と読みます。
「一日」は「ひとひ」と読んで、いちにちの意味。
最後の「一生」は「ひとよ」と詠み、一生(いっしょう)、生涯という意味です。
下に詳しく解説していきます。
解説と鑑賞
この歌は恋愛の歌ですが、楽しい歌ではありません。
一首の構成
一首の構成の図解は上の通りです。
内容を順繰りにみていきましょう。
「観覧車回れよまわれ」
「観覧車回れよまわれ」の意味は、「観覧車よ、回り続けてほしい」です。
「想ひ出は」の示すもの
普通ならデートは楽しいはずなのですが、この歌は「想ひ出は」となっており、この恋愛の週末が最初から見えています。
やがてこのひと時は、思い出となってしまって、相手は自分のものにはならない、というのが作者の自覚する結末です。
そこまで読んで、「観覧車回れよまわれ」の意味がはじめてわかってきます。
作者はこの観覧車に止まってほしくないのです。
なぜなら、自分の好きな人と二人でいるこの時間をずっと続けていたい。
それがこの観覧車への呼びかけの意味なのです。
「一生」にこめた作者の思い
さらに、作者は「一生」という言葉で、そのひたむきさを伝えています。
せいぜい「一日」である束の間の相手との楽しい時間を、心から惜しむ気持ちが見えてきます。
相手にとっては取るに足りないこと、すぐ忘れてしまうことであっても、自分にとっては一生の思い出になる、そのくらい相手のことを思っている、そういう意味がこの「一生」には表れています。
恋愛の切なさという以上に、悲劇的なまでに感じやすい、作者の一途で繊細な性向もうかがえるでしょう。
この歌の魅力はその悲劇性にあります。
さらに、よく見るとこの歌には「相手が好き」だということは、まったく記されていません。
相手への思いの強さ、そして自分にとっての相手の大切な価値、「我には一生」の言葉がそれを伝えるものとなっています。
「回れよまわれ」効果的なリフレイン
表現技法で効果をあげているひとつとしてあげられるのが、「回れよまわれ」の繰り返しです。
これによって、観覧車がくるくる回るイメージが強まります。
実際には観覧車はそんなに早く回るものではなく、体にその速度を感じるほどではないくらいゆっくりと回るものです。
しかし、「回れよまわれ」は、まるで、観覧車が回り続けているかのような錯覚を読み手に与えます。
なぜかというと、ここには強い作者の心の動揺があります。
めくるめくような恋人と観覧車の空間に向かい合っているひととき、実はぐるぐる目まぐるしく上下に「回る」のは作者の心なのです。
「君」と「我」の対句
「君には一日我には一生」、この部分は、「君」と「我」それぞれに同じ内容が割り振られています。
これは対句と言われるものです。
さらに、見てほしいのは「君には」「我には」の並置と対比です。
この句はまるで観覧車の中に対照的に向かい合っている男女を思わせます。
音韻の面では「には…には」の繰り返しと、「一日」の「ひとひ」、「一生」の「ひとよ」の対比と、「ひと―」に始まる言葉の繰り返しもあります。
リズムを生むのが言葉の繰り返し
「回れ」「…にわ」「-ひと」、これらの言葉がそれぞれ2回ずつ繰り返されていることで、歌としてのリズムが大変良いものとなっており、一首に大きな効果をあげていることもわかります。
「想ひ出は」の配置
そして、それらに挟まれて、3句に配置され、上の句と下の句をつなぐ言葉となっているのが、「想ひ出は」となっているため、この言葉は目立って重いものとなっています。
2句までの「観覧車回れよまわれ」までは、観覧車への呼びかけです。
その
これらの表現、リフレインのリズムと構成は、この歌をくっきりと形作っている特徴の一つで、大きな効果を与えるものとなっています。
短歌は、歌の意味以上にこういう面がたいへんに大切であり、意味以上にこのような表現そのものが、この歌の本質であるとも言えます。
この歌の本歌取りの歌
なお、俵万智の『かぜのてのひら』にある
「もし」という言葉のうつろ人生はあなたに一度わたしに一度
の短歌は、この歌の本歌取りと思われます。
栗木京子の他の短歌
夜道ゆく君と手と手が触れ合ふたび我は清くも醜くもなる 『水惑星』
たんぽぽの穂が守りゐる空間の張りつめたるを吹き崩しけり
舞ふ雪とその影と地に重なれり子音を追ひて母音降るごと
叱られて泣きゐし吾子がいつか来て我が円周をしづかになぞる
栗木京子について
1954年名古屋市生まれ 。京都大学在学中に「コスモス」に入会。第25回斎藤茂吉短歌文学賞、第12回前川佐美雄賞受賞、紫綬褒章受章。2018年 毎日芸術賞受賞など受賞多数。
「観覧車回れよまわれ想ひでは君には一日我には一生」は代表作品