不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心 石川啄木  

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不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心 石川啄木

2018年12月13日

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「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心」

この石川啄木の有名な短歌代表作品は、中学校の教科書に掲載されており、啄木作品においてもっとも愛唱されている歌の一つです。

この短歌の現代語訳と句切れ、表現技法などについて解説します。

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教科書掲載の短歌一覧

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不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心

読み こずかたの おしろのくさに ねころびて そらにすわれし じゅうごのこころ

作者

石川啄木 『一握の砂』

現代語訳と意味:

盛岡城の草の上に寝転んで、空に吸い込まれそうだった十五才の私の心よ

語の意味と文法解説:

・名不来方(こずかた)城…盛岡城の別名。

啄木は盛岡で中学校(盛岡尋常中学校)時代を過ごした

・吸われし…「し」は過去の助動詞「き」の連体形

「=吸われた」空を主語として、受け身の表現となっている

表現技法と句切れ:

  • 句切れはありませんので、「句切れなし」
  • 「心」の名詞で終わっている「体言止め」
  • 「吸われし」は「吸われた」の意味で、「吸われた」または「吸われるような」の比喩

体言止めの例

この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日

春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕(ゆふべ)

結句が「サラダ記念日」「夕」の名詞で終わっている。

「体言」とは名詞のことで、最後に名詞が来る歌を「体言止め」という。

他の技法については

解説

旧制盛岡中学の生徒の頃、恋と文学に夢中だった石川啄木がのちに自身を回想した一首。

不来方城の草はらで寝転んで空を見ていた、15歳の自分を懐かしみ、その時の自分の「心」にポイントを当てています。

「空に吸われし」の比喩

一首の一番大切なところは、「空に吸われし」の比喩の鮮烈さでしょう。

啄木の少年としての不安や野心を包み込んでくれるような空、または少年のロマンを象徴するような空とこころの関連、それはやはり若い心のみが持つ特権です。

「空に吸われし」の意味と理由

「空に吸われし」というのは、空がきれいだったから、その空に強く心を惹かれた ということなのでしょう。

空がきれいだったら、誰しもが心を「吸われ」るわけではありません。

そのように思った理由は、見る人の心が感受性に優れているからです。

そして、そのような敏感な心を持つのは、若い時の一時期に限られます。

単に、自分の年齢を表すだけではなくて、空に心を吸われる必然的な理由として、作者啄木は「十五の」と一首に入れているのです。

一首の背景

ただし、この歌は、ただ明るいだけの歌ではありません。

この歌は、「一握の砂」の「煙」と題する章の8番目に入っている歌です。

その章の6番目には、啄木が学校を怠けていたとする、述懐のような歌が入っており、この歌はその次の歌になるのです。

師も友も知らで責めにき/謎に似る/わが学業のおこたりの因(もと)

教室の窓より遁(に)げて/ただ一人/かの城址(あと)に寝に行きしかな

とあるので、啄木が盛岡城に行ったのは授業中に抜け出していったものと推測されます。

あまりにも授業と学校が窮屈で、屋外で一人になって初めて、作者はのびのびと心を開放することができた、そのような事情が背景にあります。

石川啄木と学校での事件

では、この歌にある「わが学業のおこたりの因」とは何だったのか。

これはいろいろに推測されますが、一つには、のちに妻になる節子と知り合ったことではないかとも言われています。

さらに、啄木は、のちにカンニング事件と言われるものを起こして、中学を退学していますので、学業が振るわなくなっていたことも確かです。

その次の歌に見る通り、啄木は授業中に窓から出て盛岡城に行き、授業を受けずにそこで寝ているというようなこともあったのでしょう。

それが、掲出歌の「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸われし十五の心」の情景なのです。

一首だけを見ると、たいへんさわやかな歌に見えるのですが、啄木の心は、決してさわやかというだけではなく、授業を抜け出した後ろめたさや、様々な思いが渦巻いていたことでしょう。

だからこそ、この空の風景が、授業をさぼった自分をとがめずに広く受け止めるものとして、啄木の心に刻まれたものであったに違いないのです。

けして楽しくさわやかなだけではない、若い日のほろ苦い経験だからこそ、後年この歌を詠むときになって様々な思いをもって回顧された、その中の一首がこの作品だったのです。

盛岡城の様子

〒020-0023 岩手県盛岡市内丸1−1−37

実際の盛岡城の様子はこちらです。別名不来方城 ( こずかたじょう )と呼ばれていますが、本来は別々の城であったとの説があります。

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