老いを詠む短歌 現代短歌と万葉集・近代短歌から  

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老いを詠む短歌 現代短歌と万葉集・近代短歌から

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9月21日の今日は「敬老の日」。

高齢化社会にあっては、誰にでもやがては訪れる老い、きょうの日めくり短歌は、老いを詠む和歌や短歌を、現代短歌と万葉集、アララギ派の近代短歌から集めてみました。

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老いを詠む短歌

元々短歌を詠む人には高齢者の割合が高くなってきています。

そして、全体的にも”高齢化社会”、老いを詠んだ歌は、どこでも見かけるものとなってきました。

それだけに作品として老いを詠むのは難しくなってきたとも言えます。

自らの老いや、周囲の人の老いを詠んだ優れた作品を集めてみました。

最初は現代短歌から

現代短歌から

現代短歌の老いを詠む歌です。

さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

作者:馬場あき子

馬場あき子の代表作の一首。

馬場あき子馬場あき子の短歌代表作品 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

 

新聞の兜を父は折らんとす今度五十の息子のために

作者:藤島秀憲

50歳にして、母を看取り、次いで父の介護をする作者。

介護の短歌 藤島秀憲『すずめ』息子が一人で父を看取るまで 

 

ゴドーを待ちながら人生がすぎてゆくかたえの人もようやく老いぬ

作者:三枝浩樹

「ゴドーを待ちながら」は劇作家サミュエル・ベケットによる戯曲

「かたへの人」とは配偶者でしょうか。

三枝浩樹歌集「時祷集」が迢空賞を受賞

 

イブ・モンタン老いて恋人持ちしとふ「枯葉」は陽気さびしく陽気

作者:岩田正

作者の初期の代表作が「イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年」 なので、その続きなのでしょう。

歌人の岩田正さんしのぶ会ご案内「かりん」創刊 妻は馬場あき子さん

 

子のわれに誰ぞと問いて幻の波寄る湖(うみ)に佇む母か

作者:武川忠一

母の最期に立ち会った作者。肉親の老いを受け止めながら歌います。

武川忠一歌集『氷湖』の短歌の鑑賞 認知症を病む母を詠む

 

かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしにくる村祭

作者:寺山修司

寺山修司は、逆に老いずに持病のため亡くなりました。

そう思って見ると「老いる」というのは、逆に贅沢な事にも思えます。

かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしにくる村祭 寺山修司

寺山修司寺山修司の短歌代表作品一覧 きらめく詩才の短歌の特徴

 

万葉集から

古い時代には人間の寿命はずっと短かったのですが、万葉集にも老いの歌はあります。

かくしてやなほや老いなむみ雪ふる大あらき野の小竹(しぬ)にあらなくに

万葉集(巻七・一三四九) 作者: 不明

現代語訳:

こんなふうに、ますます年老いてゆくのでしょうか。雪が降る大あらき野の小竹(しの)でもないのに

 

我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ

読み:わがさかり またおちめやも ほとほとに ならのみやこを みずかなりなん

331 作者 大伴旅人

現代語訳

私の元気だった時代が、またもどってくることがあろうか。 ひょっとして奈良の都を見ずにおわるのではないだろうか

 

朝日歌壇から

朝日歌壇から、一般の投稿作品から老いの歌をご紹介されていただきます。敬称は略します。

軒下に足長蜂の巣を許し同士のごとく老い人の棲む

荻原葉月

取り膳に話の弾むことはなく老いの難聴ふたりの孤独

永井祝子

昔ならば由良(ゆら)の岸べでダボハゼと遊んだものを杖が離せぬ

谷村修三

我のこと赤子のように目で追いて無垢(むく)になりゆく母の魂

牧野弘子

雨のあさ脚をひきずる老犬に傘さしかけて歩む人あり

野田孝夫

古稀の会100人の校歌どよめけりピアノを弾くは傘寿の恩師

四方幸子

 

斎藤茂吉の老いの短歌

斎藤茂吉が亡くなったのは71歳の時です。

50代から体の衰えを詠んでいますが、やはり老いの歌が顕著になったのは戦後のことです。

あたらしき時代に老いて生きむとす山に落ちたる栗の如くに

二階にてきけば野球の放送す老懶(ろうらい)の耳飽くや飽くやと

ひと老いて何のいのりぞ鰻すらあぶら濃過(こす)ぐと言はむとぞする

老いづきてわが居る時に蝉のこゑわれの身ぬちを透りて行きぬ

ながらへてあれば涙のいづるまで最上の川の春ををしまむ

あやしみて人は思ふな年老いしショオペンハウエル笛吹きしかど

斎藤茂吉の作品と生涯斎藤茂吉の作品と生涯 特徴や作風「写生と実相観入」

 

アララギ派歌人の作品から

谷かげに苔むせりける仆(たふ)れ木を息づき踰(こ)ゆる我老いにけり

作者:島木赤彦

島木赤彦には、なんとなく元気なイメージがあり、これを読むと「赤彦よお前もか」の感があります。

島木赤彦島木赤彦の代表作品50首 切火・氷魚・太虚集・柿蔭集から

 

きょうまでに老いたることもあはれにて若葉夕てる山に向かふも

作者:土屋文明

老いたこと、そのものをしみじみ思う歌。

土屋文明は、100歳で亡くなりました。

土屋文明『往還集』『山谷集』鶴見臨港鉄道他『六月風』

 

老いかがむ母を背負いひて歩みゆく温泉(いでゆ)に下るあつき石道

作者:五味保義

老いた母の看取りの歌。

五味保義の短歌 アララギ派の歌人

 

見る影もなく崩れたる身を歎くことも少なくなるまでに老いぬ

作者:津田梅子

ライ病を病んだ歌人。老いたので病み崩れた体への嘆きが薄れたという内容です。

 

老いませる父に寄りそひあかねさす昼の厩(うまや)に牛を見て居り

作者:古泉千樫

飼っていた牛と共にある父を美しく詠います。

 

きょうの日めくり短歌は、敬老の日にちなむ老いの短歌をご紹介しました。

それではまた明日!

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