歌人と作品

馬場あき子の短歌代表作品 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

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馬場あき子さんの代表作品、有名な短歌にはどんなものがあるでしょうか。

馬場あき子さんは、歌人として文化功労者に選ばれたことが10月30日に発表になりました。

ニュースと併せて、馬場さんの短歌をご紹介します。

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馬場あき子さん 文化功労者に

歌人の馬場あき子さんが文化功労者に選ば間れました。

「到達した短歌の境地は日本の財産ともいうべきもの」と評価を受けたようです。

馬場あき子さんは、日本の代表的な歌人として、また、結社の代表であった夫君岩田正氏と共に、短歌の普及と指導にも携わってこられたと思います。今回の決定を心よりお喜び申し上げます。

以下は、決定を伝える朝日新聞の記事です。

■短歌守り、日本語守る 文化功労者・馬場あき子さん

今回の決定のなかで、「到達した短歌の境地は日本の財産ともいうべきもの」と評価された。本人は「自分のやりたいことを好きにやってきただけなのに」と謙遜する。

12歳から歌づくりを始め、終戦後に本格化。歌集だけでも27冊ある。評論も数多く発表してきた。朝日歌壇の選者歴は41年。歌壇の裾野を広げようと努めている。「短歌を守ることは日本語を守ることだと思います」

5・7・5・7・7という型は言葉を磨く砥石(といし)と語る。「一語一語の選び方や、つなぎ方に人間の質がにじみ出るのよ」。そんな短歌の可能性を追究し続けている。

馬場あき子 代表作品の短歌

馬場あき子さんの短歌の歌集は27冊もあるそうです。

なので、代表作短歌といっても、すごくたくさん、無数にあることになってしまいます。

その中でももっともよく引用されるものと言えば、下の短歌だと思います。

さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

意味:桜の花は、何年何回の春を重ねていって、老いにいたるのだろうか。依然として凛と立っている桜の脇にたたずめば、老いてしまった私には、流れの水の音がことごとく響いてくるというのに

また、近年は教科書に掲載されている下の歌も、よく鑑賞されています。

 

つばくらめ空飛びわれは水泳ぐ一つ夕焼けの色に染まりて

空を飛ぶ燕と、水泳をする私を対照させて、そして、同一視するという帰結です。

 

子ども抱へしボート難民のリアルなる渚を思ふ冬の入口

シーラカンスの憤怒することもあらざるやスマホに飼ひて折々に見る

題は「冬の入り口」。

2019年の新春詠です。

馬場さんは、今年91歳。といっても、あまりこのような紹介は好まないところで、歌人や作品に年齢は関係ないのですが、現代の風俗を取り入れた若々しい歌です。

 

漢の武帝西方の葡萄つくづくと見て未知の香をおそれ給へり

葡萄という対象物につなげて、空間と時間を拡張したものです。

葡萄が未知の果物であり、未知の香りを持っていた人、漢の武帝に成り代わって、新たな驚きをもって見つめる作者の姿。

また、そのイマジネーションが素晴らしい。

ひとつのものに、どれだけの奥行きがつけられるかというのは、作者の知識と歴史が反映されます。

 

一生に詠むうた読むうた思ひ出に梔子(くちなし)のはな咲きそふやうな

馬場あき子さんは、朝日歌壇の選者を務めておられ、これまでの投稿作品を振り返って詠まれた歌です。 もちろん、これには、ご自分の短歌の在り方も含まれているのでしょう。

 

嫁(ゆ)く吾れに多くやさしき心づけの集りし夜の菊の静けさ

歌集『早笛』より。

昭和30年代の歌集だそうで、まだまだ人々が貧しい時代に、自分の結婚を祝う人たちがお祝いをくれた、その感慨を詠ったものです。

今は若い人の結婚は会費制になり、このような光景や心情も過去のものになりつつあります。

そもそもが「嫁ぐ」という言葉が死語となっているかもしれません。

今のように、平等な男女が結婚として結ばれる、というようではなくて、「嫁ぐ」というのは、それまでの自分の来歴をも打ち消して、相手の家に文字通り入ることを表しました。

結婚は女性にとっては、ある種の覚悟を必要とすることであり、それだけに周囲のお祝い、そして労りが身に染みたというところが少なからずあるかもしれません。

夜蝉一つじじつと鳴いて落ちゆきし奈落の深さわが庭にあり

馬場さんは能に知悉しており、能では「奈落」とは劇場における舞台の下の空間を言います。

夜の庭から聞こえてくる声に、作者はふとその奈落の深さを思うのですが、それが生と隣り合わせの死を思うことでもあるのでしょう。

針の穴一つ通してきさらぎの梅咲く空にぬけてゆかまし

これには、馬場さん自身の注釈がありますので、引用させていただくと

針の穴をすっと通すのが得意だった。「針の穴は目で通すんじゃない。すっという気持ちで通すのよ」などと大口をたたいていたが、今も眼鏡なしになぜか通せる。

この歌などさきの歌につづく時期の、何か開けてゆきそうな軽く、妖しい気分でうたっている。「馬場としては近頃めずらしい歌だね」と岩田に批評されてうれしかった。何か期するものもあったのだが、すぐには何も変るはずがない。ただ、この頃から、少しばかり老いの意識が生まれたように思われる。

「きさらぎ」は如月、2月のこと。

その空に、「針の穴をくぐる」メタファーが何なのかはっきりしていませんが、体調の変化があった時期の歌で、「老いを意識した」とあるように、軽々と「老い」の境地に入りたいというようなことかもしれません。

大江山桔梗刈萱吾亦紅 君がわか死われを老いしむ

これも能に通じていた馬場さんならではの作品。

「大江山」の謡にある。「頃しも秋の山草、桔梗刈萱破帽額(ききょう、かるかや、われも こう)。 紫苑といふは何やらん。鬼の醜草とは、誰がつけし名なるぞ」が詠み込まれています。

舞台では、この後に山伏に盃を勧める場面となりますが、そこで亡くなった「君」に語りかけるかのような作者の述懐が交錯します。

一期なる恋もしらねば涼やかにはみてさびしき氷白玉

意味は、「一生に一度の恋も知らない、そのような落ち着いて過ぎてきた生を、何でもないように氷白玉を食べながらも、寂しくも思うのだ」

氷白玉に生を回顧する、その思い付きが豊と言えます。

父病めば人遠きかな夏深く終わるもの一つ一つたしかむ

馬場さんは、母上を早くに亡くし、肉親は父上だけだったようで、その根底にある寂しさは、馬場さんの短歌の一つの特徴でもあると思います。

この歌は、その肉親との別れを意識した歌。

この時期の父の歌をたくさん詠まれています。片親との別れはなおつらいものです。

 

夫岩田正さんの代表作

最後に馬場さんの夫、故岩田正さんの、これも代表作と言われる短歌をご紹介します。

イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年

『郷心譜』所収。

ユーモラスな歌のようでありながら、深い愛情を感じる歌です。

馬場あき子プロフィール

馬場 あき子は、東京都出身の歌人、文芸評論家。

短歌結社「かりん」主宰。日本芸術院会員。

朝日歌壇、岩手日報「日報文芸」、新潟日報読者文芸選者。古典や能に対する造詣が深く、喜多実に入門、新作能の制作も行っている。

また、『鬼の研究』など民俗学にも深い知識を持つ。本名:岩田暁子。夫は歌人の岩田正。――Wikipediaより

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