つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを 在原業平の古今和歌集の和歌、他に「伊勢物語」にも収録されている短歌の現代語訳と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
現代語での読み:ついにゆく みちとはかねて ききしかど きのうきょうとは おもわざりしを
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
・『古今和歌集』巻16哀傷歌861
・「伊勢物語」の125段『つひにゆく道』
※在原業平については
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在原業平の代表作和歌5首 作風と特徴
現代語訳と意味
いつか最後に歩む道だとは前から聞いていたが、まさかそれが昨日や今日だとは思いもしなかった
■在原業平の他の歌
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし/在原業平/古今集解説
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平
語と句切れ
一首に使われていることばと文法と修辞法、句切れの解説です
・句切れなし
・比喩-「道」は自らが死ぬことを暗示している。
・「かねて」はあらかじめの意味の副詞
・「ど」は逆説を表す接続助詞。意味は「聞いていたけれども」。
「思はざりしを」の品詞分解
・「思はざりし」は打消しの助動詞「ざり」+過去の助動詞「き」の連用形+結句の「を」は詠嘆
意味は「思わなかったものを。思わなかったのに」
古今和歌集と新古今和歌集の代表作品 仮名序・六歌仙・幽玄解説
解説
「伊勢物語」の最後の歌。
「伊勢物語」の原文
昔、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
原文の現代語訳
昔、男が病気になって、死ぬかもしれないという気持ちをおぼえて詠んだ歌
(歌の訳)
「いつか最後に歩む道だとは前から聞いていたが、まさかそれが昨日や今日だとは思いもしなかったのに」
「道」の理解のポイント
歌の意味は、上の通りですが、「心地死ぬべくおぼえければ」で、「道」が「死ぬこと」を表していることがわかります。
よって、歌の意味を場面に応じて、再度訳すと、
人に最期の時があるとは聞いてわかっていたけれども、それが突然昨日今日のこととして自分にやってくるなど思ってもみなかったのに、それが本当に来るなんて
「かねて…」「昨日今日」の時間の幅
「かねて」は、「前もって、あらかじめ」の意味で、「かねて聞きしかど」は「前より聞いてはいたけれども」で、過去の助動詞「き」の連用形「聞きし」で、この部分は過去を表しています。
そこから、「昨日今日」という現時点のことを述べて、過去と現在を対比する形で、思いがけなかった、みずからの心の驚きを表現しています。
「かねて」の過去から「今日」という時間の幅を歌にもたらすことで、今、まさに死が迫ったと思う作者の心の大きな動きが表現できるのです。
在原業平の歌人解説
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われ、容姿端麗、情熱的な和歌の名手、色好みの典型的美男とされて伝説化された人物。
在原業平の他の代表作和歌
ちはやぶる神代もきかず龍田河唐紅に水くくるとは(古今294)
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ(古今410)
白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消(け)なましものを (古今851)
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは元の身にして(古今747)
名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思う人はありやなしやと(古今411)