いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん 九条良経  

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いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん 九条良経

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いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん 九条良経の新古今集の和歌の現代語訳と解説・鑑賞を記します。

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いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん の解説

読み: いくよわれ なみにしおれて きぶねがわ そでにたまちる ものおもうらん

作者と出典

九条良経 (藤原良経)

新古今和歌集 巻12 恋歌2 1141

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藤原良経 百人一首の和歌と代表作

現代語訳と意味

あともう幾夜、私は波に衣を濡らして貴船川を渡って来ては、袖を涙で濡らし嘆きながら恋の物思いをするのだろうか

句切れと修辞

  • 本歌取りの歌
  • 3句切れ

歌の語句

  • 幾夜われ・・・われの部分は「われは」の主語で、主格の助詞「は」が省略されている。
  • しほれて・・・基本形「しほる」[動ラ四]濡らす。
    しめらす ここでは衣の裾が濡れることを言う
  • 貴船河・・・読みは「きぶねがわ」。
    京都府京都市左京区を流れる全長約3kmの短い河川
  • 袖に玉ちる・・・「玉」は涙のこと。
    「袖を濡らす」は泣くこと、涙を流すことをいう。「玉ちる」も同じ意味。
  • 物おもふ・・・「恋に悩み、もの思いをする」という意味。
  • おもうらむ・・・「らむ」は未来・推量の助動詞

解説

本歌取りの歌として有名な九条良経の歌。

「超絶技巧の和歌」とピーター・マクミランが評している。

本歌取りの貴船明神の歌

本歌は貴船神社の紙である貴船明神が詠んだとされる

奥山にたぎりておつる滝つ瀬の玉ちるばかり物な思ひそ

である。

この歌は、和泉式部が貴船神社に参詣し、みたらし川に蛍が飛んでいるのを見て詠んだ次の歌の返歌として後拾遺和歌集に収録されている。

和泉式部が詠んだ歌

和泉式部が詠んだ歌の方は

物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る

の方。

それぞれの意味は

物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る

現代語訳:

物思いをしていると、沢を飛び交っている蛍の火も、自分の身から離れ、さまよい出た魂ではないかと見えたことだ。

貴船大明神の返歌

貴船大明神の返歌の方は

奥山にたぎりておつる滝つ瀬の玉ちるばかり物な思ひそ

現代語訳

奥山に激しく落ちる滝の水が散るように魂が散るほど思いつめるな

というもの。

※解説記事
物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づる魂かとぞみる 和泉式部

祈恋の心の詞書

良経の歌には「祈恋といへる心を」とある。

祈恋とは、和歌の題の言葉で、その和歌の内容は「神仏へ恋の祈願をすること。それにも関わらず恋がうまくいかないことを嘆く」ということになります。

作者良経は、祈恋の題に、和泉式部のこの歌を思い浮かべそこから本歌取りとしてこの歌を詠んだのです。

良経の本歌取りの技巧解説

良経の歌の優れているところは、和泉式部と貴船明神の両方の内容を上手に取り入れているところです。

両方を対照してみましょう。

本歌との対象

物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る (和泉式部)

いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん (九条良経)

恋に患い、魂が離脱するかというばかりに相手を思っているというのが、和泉式部のこの歌です。

良経の上二句「いく夜われ浪にしほれて」は、このもの思いを受け継いでいます

和泉式部の歌の内容は激情的ではなく、あくまで自己の内面を詠う内容です。

「あくがれ出づる魂」の部分だけが、外部に向かう心の形象化を遂げていますが想像上のものです。

良経の歌はその内面の、思いつめる気持ちと恋の嘆きを「われ」を主語にして表しています。

貴船明神の本歌との対照

奥山にたぎりておつる滝つ瀬玉ちるばかり物な思ひそ (貴船明神)

いく夜われ浪にしほれて貴船河袖に玉ちる物おもふらん (九条良経)

貴船明神の歌の方は、和泉式部の「あくがれ出づる魂」以上に、激しい恋心を具象化しています。

「奥山」は心の底のことで、「たぎりておつる滝つ瀬の玉ちるばかり」は和泉式部の歌よりももっと強い表現で、砕け散ってしまうような心の有様を表しています。

また、滝は内面の物ではなく、外部にある事物なので、視覚化された情景により思いという無形のものが一層はっきり描き出されます。

本歌取りの言葉

良経の歌は貴船明神の本歌よりとった言葉の、「玉ちる」「もの思ふ」を繰り返しています。

上句の方は、同じではないものの、「たぎりておつる滝つ瀬」に対して「浪にしほれて貴船河」とを対照させています。

良経の表現は激しくはなく、やはり和泉式部のような内面的なものです。

良経の歌のポイント

大事なのは、ここに「貴船河」との地名を入れることです。

■「貴船河」の言葉の役割

・一首が具体性を増す

・本歌を示す言葉が明確になる

それによって、歌が具体性を増す効果があること、それと本歌がはっきりさせるという点です。

この歌は題詠ですので、恋愛が詠まれていても架空の恋愛である可能性が高いわけです。

そこに「貴船河」という実在の地名を入れれば誰でもがその川を目に浮かべることができ、恋愛があたかも本当の物であるように描くことができます。

さらに、和泉式部と貴船明神の歌は和歌を詠む人は知っているため、貴船明神という言葉が入っていれば、本歌がどれかもすぐ伝わります。

良経はこれらのことを踏まえて、本歌取りの歌として、先の本歌二首につながる歌を見事に詠んだということなのです。

九条良経の他の本歌取りの歌

良経の本歌取りの歌は他にも

かぢをたえ由良のみなとによる舟のたよりも知らぬ沖つ潮風

があります。

※この歌の解説は前の記事に。

かぢをたえ由良のみなとによる舟のたよりも知らぬ沖つ潮風 九条良経

貴船神社の場所

作者九条良経について

九条良経は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公卿・歌人。

和歌の才には早熟なものがあり、後に後鳥羽院に「秀歌のあまり多くて、両三首などは書きのせがたし」と評されている。

別名、藤原良経(ふじわらのよしつね)の他、後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん)という作者名。

九条兼実の子、藤原忠通の孫、役職は摂政太政大臣。慈円は叔父。

和歌を藤原俊成に学び、六百番歌合を主催、藤原定家を後援した。

新古今和歌集の仮名序の執筆者でもある。

九条良経の代表作和歌

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