ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く 作者山部赤人の万葉集の代表的な和歌を鑑賞、解説します。
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ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く
読み:ぬばたまの よのふけゆけば ひさきおうる きよきかわらに ちどりしばなく
作者と出典
山部赤人(やまべのあかひと)
万葉集 3914
現代語訳
夜が更け渡ると久木の茂っている景色の良い河原に千鳥がしきりに鳴いている
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句切れと修辞
- 句切れなし
- 3句が字余りで6文字
語と文法
・ぬばたまの…枕詞 夜にかかる
・久木…アカメガシワの別称
・千鳥…ちどり科の小鳥。水辺に群れとなって住み、哀調を帯びた声で鳴く。
・しば鳴く…「しきりに鳴く。 さかんに鳴く。」の意味の一つの動詞。漢字は 「廔鳴く」
解説と鑑賞
行幸に際して見聞した芳野川の夜の風景を詠んだ歌。
下句の千鳥の鳴き声という聴覚的な描写にポイントがある。
「久木生ふる清き川原」は近くで見ているのではなく、鳥の声から目に浮かぶ昼間の川の風景の記憶とみてもいいし、夜景そのものを見ていると理解してもいい。
3句はあえて字余りになっており、結句の「千鳥しば鳴く」の「ちどり+しば+なく」の簡潔さとの対照に緩急が生まれている。
斎藤茂吉の一首評
斎藤茂吉は『万葉秀歌』でこの歌を下のように鑑賞・解説している
(前略)月の事がなければやはりこの「清き」は川原一帯の佳景という意味にとる方がいいようである。併しこの歌は、そういう詮議を必要としない程統一せられていて、読者は左程解釈上思い悩むことが無くて済んでいるのは、視覚も聴覚も融合した、一つの感じで無理なく綜合せられて居るからである。或は、この歌は、深夜の千鳥の声だけでは物足りないのかも知れない。「久木生ふる清き河原」という、視覚上の要素が却って必要なのかも知れない。―出典:斎藤茂吉『万葉秀歌』より
山部赤人の他の和歌
すべて解説ページあり。
それ以外の山部赤人の歌は⇒山部赤人の代表作和歌一覧
山部赤人について
山部赤人 (やまべのあかひと) 生没不詳
神亀元年 (724) 年から天平8 (736) 年までの生存が明らか。国史に名をとどめず、下級の官僚と思われる。『万葉集』に長歌 13首、短歌 37首がある。聖武天皇の行幸に従駕しての作が目立ち、一種の宮廷歌人的存在であったと思われるが、ほかに諸国への旅行で詠んだ歌も多い。
短歌、ことに自然を詠んだ作はまったく新しい境地を開き、第一級の自然歌人、叙景歌人と評される。後世、柿本人麻呂(かきのもとの-ひとまろ)とともに歌聖とあおがれた。三十六歌仙のひとり。