式子内親王(しきし、、くしないしんのう)の和歌、いちばん有名なのは「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする」ですが、式子内親王には、他にも秀歌がたくさんあります。
内親王の和歌代表作品をご紹介します。
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式子内親王(しきしないしんのう)とは
式子内親王(しきしないしんのう・しょくしないしんのう)は、鎌倉時代の代表的な女流歌人です。
新古今集時代の代表的な女流歌人も、式子内親王です。
式子内親王の名前が「しょくし」と「しきし」の二つの読みがあるのは有職読みというものです。
内親王は後白河天皇の娘で11年間、賀茂斎院として、神に仕える生活を送られ、その後も生涯独身を通されました。
二十歳あまり年下の甥の惟明親王とも贈答の歌がたくさんありますが、藤原俊成、藤原定家と親しく、特に定家とは架空の恋物語まで作られていますが、その関係はよくはわかっていません。
ただ、内親王の歌が恋歌にたけていたことは事実で、孤独な生活からくる憂愁の調べが漂っています。
式子内親王の歌の特徴「忍ぶ恋」
恋愛の歌とはいっても、従来の相聞、相手に呼びかける歌というものではなく、「忍ぶ恋」を歌ったというのが式子内親王の歌の特徴です。
つまり、秘めた恋心を自分自身につぶやいて言えるような、そのような主題の恋歌なのです。
心の中に激しいもの、憑かれたような思いを表白する歌が多く見られます。けっして、明るい楽しい恋愛の歌ではありません。
式子内親王の代表作
代表的な作品は、やはり百人一首に採られた下の歌
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする
読み:たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
作者と出典
式子内親王
百人一首89番 新古今和歌集
現代語訳と意味
わたしの命よ。絶えてしまうというなら絶えてしまっておくれ。生きつづけていたならば、恋心を秘めている力が弱って、秘めきれなくなるかもしれないので
解説
恋愛の歌ですが自発的に詠まれたものではなく、題詠であり、縁語などの技巧が駆使され、内親王の和歌の技術の高さがよくわかる作品です。
詳しくは下の解説を
忘れてはうち嘆かるる夕べかな我のみ知りて過ぐる月日を
読み:わすれては うちなげかるる ゆうべかな われのみしりて すぐるつきひを
作者と出典
式子内親王 新古今集
現代語訳と意味
私のしのぶ思いをあの方には告げないで、私一人の胸にしまったまま過ぎてきたこの月日であるものを
解説
恋しい相手がいるのに、その気持ちを告げない。「過ぐる月日を」に、この思いや関係が長いことが推察されます。
時鳥そのかみやまの旅枕ほの語らひし空ぞ忘れぬ
読み:ほととぎす そのかみやまの たびまくら ほのかたらいし そらぞわすれぬ
作者と出典
式子内親王 新古今集
現代語訳と意味
その昔、賀茂斎院の神館に旅寝をしていた頃、ホトトギスがかすかに鳴き出でたあの空が忘れられません
解説
表面的には恋の歌ではないように見えますが、恋の情緒が歌全体を包んでいます。
「ほのかたらいし」というのは、ホトトギスの声のことを言っていますが、もちろんホトトギスと「語ら」ったわけではなく、ホトトギスの声に、恋人と語り合った時のことを二重写しにしているのです。
実際には、斎院であった内親王の住まいや、神館において、男女が語り合うななどということは、ありえない情景なのですが、「ほのかたらいし」「ほの」の接頭語によって、夢か現かわからない、かすかな幻という含みがあります。
生きてよも明日まで人もつらからじこの夕暮をとはばとへかし
読み:いきてよも あすまでひとは つらからし このゆうぐれを とわばとえかし
作者と出典
式子内親王 新古今集 1329
現代語訳と意味
あなたを思う恋の苦しさのために、よもや明日まで生きていられる身ではありますまいし、そうと知ったらあなたも私に今までのようにつれなくはなさらないでしょう。今あるこの夕暮れに、訪ねる心があるなら訪ねてください。
解説
「生きてよも明日まで人もつらからじ」は、「生きてよも明日まで」は、作者が主語、「よも」は「よもやの意味です。
「人もつらからじ」は、相手の気持ちの推測です。
ここまでは言葉を省略しながら、複雑な内容です。
「とわばとえかし」の「とわば」は「問いたい気持ちがあるのなら」、ですが、「今更期待していない」という気持ちを表します。
恋愛の苦しくもぎりぎりの気持ちを表すこの歌には、一種のすごみがあります。
式子内親王の作品は、いずれも相手が誰かも含めて謎の多いものなのですが、強い思慕の念が特徴的です。
かへりこぬ昔をいまと思ひねの夢の枕ににほふたちばな
読み:かえりこぬ むかしをいまと おもいねの ゆめのまくらに におうたちばな
作者と出典
式子内親王(しょくしないしんのう)
新古今和歌集 夏 240
現代語訳と意味
再び帰っては来ない昔のことを、今のことのように思う夢のその枕辺に橘の花の香りが漂っています
解説
特に恋愛の歌とはなっていませんが、枕といえば、やはり恋人との共寝を連想させるでしょう。
この歌は、恋という言葉は含まれていませんgな、大変優れた、歌の調べの美しい歌です。
花は散りその色となくながむればむなしき空に春雨ぞふる
読み:はなはちり そのいろとなく ながむれば むなしきそらに はるさめぞふる
作者と出典
式子内親王(しょくしないしんのう)
新古今集 149
※「式子」の読みについては
「式子内親王」「藤原定家」の読み方 名前が2つになる有職読みとは
現代語訳と意味
花はすっかり散りはててしまって どこということもなくてしみじみと思いをこらしてみると、何もない大空に春雨が降っている
式子内親王秀歌一覧
式子内親王の秀歌一覧はこちらから
以上、式子内親王の、百人一首と新古今和歌集の恋の歌でもっとも有名なものをご紹介しました。
式子内親王の歌人解説
式子内親王(しょくしないしんのう、または、しきしないしんのう)
正確な誕生日は不明で、久安5年(1149年)ごろとされる。
逝去は 建仁元年1月25日(1201年3月1日)。 日本の皇族。賀茂斎院。新三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人。後白河天皇の第3皇女。和歌を藤原俊成に学び、憂愁に満ち、情熱を内に秘めた気品の高い作品を残した。
式子内親王の歌は、上下巻の下の方に入っています。
解説書は