「夢の日」にちなみ、きょうの日めくり短歌は夢の短歌、夢を詠み込んだ短歌を、古い時代の和歌から現代短歌まで広くご紹介していきます。
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夢の短歌
夢という不思議な現象は体験する度、いつになってもものめずらしいものです。
夢に見たこと、夢を見たことそのもの、夢の中での出来事などを詠み込んだ詩歌は、古今東西古くから作られています。
きょう「夢の日」にちなみ、夢の和歌・短歌の有名で優れた作品を広くご紹介していきます。
各歌のさらに詳しい解説は、それぞれのページに掲載しています。
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを
読み: おもいつつ ねればや ひとの みえつらん ゆめとしりせば さめざらましを
作者と出典
小野小町 古今集巻
現代語訳
思いながら寝ればその人に夢で逢えるだろう 夢とわかったならば、覚めないでいてほしいものを
解説
夢の短歌は、恋愛の歌がほとんどで、その筆頭は、「夢で逢いたい」というもの。
上の小野小町の歌も、思う人になかなか会えない。せめて夢の中でも逢って、ずっとそのままいるために覚めないでいたいという切ない恋心を詠います。
うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
読み:うたたねに こいしきひとを みてしより ゆめてうものは たのみそめてき
作者
小野小町 古今和歌集
現代語訳
うたた寝をして恋しい人を夢に見て以来、夢というはかないものを、私は頼みにし始めたのであった
解説
同じく小野小町の歌。唯一の逢いの手段、それが夢である、はかないものとは知りながら、それだけが頼みだという痛切な思いを詠んでいます。
住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ
読み:すみのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらん
作者と出典
藤原敏行朝臣 (
古今和歌集恋・559 百人一首18
現代語訳と意味
住の江の海岸の岸に寄る、その波ではないが、夢のなかにも、どうしてあなたは人目を避けて、寄ってきてはくれないのだろう
解説
「夢の通い路」というのは、この歌だけではなく、他にも広く通じる表現となっています。
あの世とこの世のように夢と現世とつなぐもの、そして、思う人の元へ行く手立てという幻想的なモチーフですが、この歌では、夢にさえも見られないということが、さらなる恋の嘆きとなっています。
この時代の歌は他にも
午前二時ごろにてもありつらむ何か清々しき夢を見てゐし
読み:ごぜんにじ ごろにても ありつらん なにかすがすがしき ゆめをみていし
歌の意味と現代語訳
午前2時ごろだったかもしれない。何かすがすがしい夢を見ていた
作者と出典
斎藤茂吉「ともしび」大正14年
解説
夢の内容はわかりませんが、夢の記憶のみ詠まれています。
それがまたいかにも夢らしいと言えるでしょう。
わがカヌーさみしからずや幾たびも他人の夢を川ぎしとして
読み:わがかぬー さみしからずや いくたびも たにんのゆめを かわぎしとして
作者と出典
寺山修司 初期歌篇 「15歳」 「寺山修司青春歌集」より
現代語訳
私のカヌーはさびしくはないのだろうか、さびしいだろう。川岸として何度もたどり着くのは他人の夢ばかりなのだから
解説
カヌーをモチーフにした幻想的な歌。一隻のカヌーが川に浮かんでいる様子が目に浮かびます。
さまようようなカヌーを思い浮かべるだけで、「さびしい」気持ちが詠み手の方に湧いてくるのです。
「カヌー」が寂しいというのは、擬人法。「さびしからずや」は反語表現というものです。
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ここといふ選びをつねにあやまちて夢のごとくにたのしかりける
読み:ここという えらびをつねにあやまちて ゆめのごとくに たのしかりける
作者と出典
岡井隆『歳月の贈物』
現代語訳
大切な時の選択を常に誤ってばかりいて、夢のように楽しかったのであるよ
解説
岡井隆は、愛人と九州に出奔、一時、失踪のような行方不明となったことがあります。
しかし、それが「夢のように楽しかったなあ」と肯定しているところに救いがあります。
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眠りつつ髪をまさぐる指やさし夢の中でも私を抱くの
読み:ねむりつつ かみをまさぐる ゆびやさし ゆめのなかでも わたしをだくの
作者と出典
俵万智 『チョコレート革命』
現代語訳
まどろみながら私の髪を撫でるあなた、夢の中でも私を抱くのですか
解説
俵万智の相聞、恋愛の歌。
「抱くの」はこの場合、相手に対する疑問なのでしょう。収録歌集『チョコレート革命』は婚外恋愛が主題ですので、その場合の「夢の中でも」というのは、最初の小野小町と同じような意味合いなのかもしれません。
愛し合っている二人だが、いつでも会えるわけではない。そのような状況下で詠まれた歌だと思って読むと、「夢の中でも」がちょっと違ったニュアンスをもって伝わります。
きょうの日めくり短歌は「夢の日」にちなみ、夢の短歌をご紹介しました。
それではまた!
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