立冬が今年もめぐってきました。
きょうの日めくり短歌は 立冬、冬の到来を詠んだ短歌をご紹介します。
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立冬とは
立冬とは、冬の始まりという意味で、立春、立夏、立秋と並んで季節の大きな節目のひとつです。
この日から立春の前日までが冬となります。
冬に入ると太陽の光が弱まり、冬枯れの景色が目立つようになり、俳句の場合は、季語には「冬立つ」「冬入る」が多く用いられ、短歌だと「冬は来にけり」が多く用いられます。
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近代短歌の立冬の歌
以下は近代短歌から冬を詠んだ歌です。
新しき庭の草木の冬ざれて水盤(すいばん)の水に埃(ほこり)うきけり
作者:正岡子規
「冬ざれて」は「草木が枯れはてて寂しい冬の風物のようす。また、そのような冬の季節。」のことで、もとは「冬されば」。
湖つ風あたる障子のすきま貼り籠りてあらむ冬は来にけり
作者:島木赤彦
島木赤彦は長野県生まれ。歌の湖は諏訪湖のことです。
他にも:
みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ 島木赤彦
冬日かげふかくさしたる山のみ寺の畳の上に坐りけるかも
作者:古泉千樫
「かげ」というのは、日の光のこと。冬は、太陽が低くなり、日差しが長く、影も長くなります。冬の美しい寺の風景です。
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籠居の庭冬さびて愁はしく雲のかげ落ちおちては去るも
作者:中村憲吉
「冬さびて」の「さぶ」は「のようだ。…のようになる」の動詞で、冬の入りに使える表現です。
他に、「冬鳥の啼きなくままに櫟原したびの笹を分け入りにけり」「冬の日の暫時の晴れを人見えぬ野にいや冴ゆる村の音かも」も感覚的な作品です。
この一月に棄てられしは牝犬(めいぬ)なりしかば初冬に母の犬の位(くらゐ)ぞ
作者:斎藤茂吉
斎藤茂吉の短歌。今年の1月の捨て犬が、11月、12月になると、子犬を生むだろうということなのですが、「母の犬の位」というのがなんともおもしろい思いつきです。
一冬は今ぞ過ぎなむわが側の陶の火鉢に灰たまりたる/斎藤茂吉の冬の短歌
風暗き都会の冬は来たりけり帰りて牛乳(ちち)のつめたきを飲む
作者:前田夕暮
都会での一人暮らしの憂愁を詠った作品。牛乳は当時は珍しいものであったでしょう。
風暗き都会の冬は来たりけり帰りて牛乳のつめたきを飲む 前田夕暮
立冬の短歌
ここからは新古今集から有名な歌人である藤原定家他の立冬の歌をあげます
藤原定家の立冬の歌
かずしらずしげるみ山のあをつづら冬のくるにはあらはれにけり
かくしつつ今年もくれぬと思ふよりまづ歎かるる冬は来にけり
ふるさとの しのぶの露も 霜ふかく ながめし軒に 冬は来にけり
かきくらす木の葉は道もなきものをいかにわけてか冬のきつらむ
刈り残す田のもの雲もむらむらにしぐれて晴るる冬は来にけり
他にも
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ 藤原定家「三夕の歌」
藤原俊成の立冬の歌
おきあかす秋のわかれの袖の露霜こそむすべ冬や来ぬらむ
他にも
夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里 藤原俊成
源実朝の立冬の歌
秋はいぬ風に木の葉は散はてて山さびしかる冬は来にけり
木の葉散り秋も暮(くれ)にし片岡のさびしき森に冬は来にけり
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源実朝の和歌代表作品10首 短歌集「金塊和歌集」より
以上、立冬に関連する短歌をご紹介しました。
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