万葉集には面白い歌が実はたくさん含まれています。
万葉の時代でも楽しく愉快な歌が好まれたのは現代と変わらないところです。
万葉集の面白い楽しい歌をご紹介します。
万葉集とは
スポンサーリンク
万葉集に収録された歌は全部で約4500首あります。
深い心の伝わる歌の他に、おもしろくて愉快な歌もまんべんなく収録されているのです。
万葉集関連記事:
万葉集とは古代の詩歌集!いにしえの心にふれてみよう
万葉集を編纂するときに、挽歌や相聞、雑歌とジャンルがわかれていますが、おもしろい歌はその雑歌の部に含まれています。
ちなみに万葉集を編纂したのは大伴家持と言われているので、家持の好みもあるかもしれませんが、編纂に関わった人はもっとたくさんの人がいるとも言われています。
万葉集の面白い歌1 鰻
万葉集のおもしろい歌は、内容が面白い歌、音のリズムが面白い歌などいろいろです。
もっともよく引用されるのは、大伴家持の鰻の歌です。
石麻呂に我れ物申す夏痩せによしといふものぞ鰻捕り喫せ
読み:いしまろに われものもうす なつやせに よしというものぞ むなきとりめせ
意味と現代語訳
石麻呂殿に申し上げます。夏痩せに良く効くといいますよ。鰻を獲って召し上がれ
解説
作者は大伴家持(おおとものやかもち)。万葉集 3853
詞書(ことばがき)には、「痩(や)せたる人を嗤咲(わら)へる歌二首 」とあります。
売⒮の「石麻呂」という人の名前を名指しで直接に歌に入れて、その人のやせていることをからかっているのです。
おもしろいのはその二首目、
痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻を捕ると川に流るな
読み:やすやすも いけらばあらむを はたやはた うなぎをとると かわにながるな
その意味は、「痩せながらも生きていたら結構だろうに、ひょっとして鰻を獲ろうとして川に流れなさるな」
もちろんどんあに痩せた人であろうとも川に流されるほどではありませんので、これは大伴家持が石麻呂さんという人をからかっているのです。
解説記事:
万葉集の鰻の和歌 大伴家持が夏痩せに滋養のある鰻をすすめる歌
万葉集の面白い歌2 語呂
続いて同じ言葉を続ける工夫がされた和歌が下の歌です
よき人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よよき人よく見つ
読み:よきひとの よしとよくみて よしといいし よしのよくみよ よきひと よくみつ
作者と出典
天武天皇 万葉集1-27
一首の意味は「昔の良き人が、良いところだと、よく見て良いといった、この吉野をよく見よ。今の良き人、我が息子たちよ、よく見るがよい」というもの。
天武天皇が吉野の美しさをたたえているのですが、原文の「よし」の漢字は5種類が使われています。
解説記事:
よき人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よよき人よく見つ 天武天皇
万葉集の面白い歌3 意味不明
おもしろい歌としてよく引かれるのは、万葉集の下のナンセンスで意味不明の歌です。
吾妹子が額に生ふる双六の牡牛の鞍の上の瘡
16巻 3838
読み:わぎもこが ひたいにおうる すごろくの こといのうしの くらのえのかさ
作者は安倍子祖父(あべのこおおじ)という人です。
万葉集 16巻 3838
解説
この歌の意味はなんと「吾妹子の額に生えた双六の雄牛の鞍の上の腫れ物」というのです。
万葉集で牛の詠まれた短歌はこの歌のみです。
「牛の蔵の上のおでき」とはどんなものなのか理解に苦しみますが、この歌が詠まれた背景は、舎人(とねり)親王(天武天皇の皇子)が従者たちに、「意味の無い歌を作る者がいたら褒美を出そう」と言ったために詠まれたものです。
もう一首、この次の歌。
我が背子が犢鼻(たふさぎ)にする円石(つぶれいし)の 吉野の山に氷魚そ懸(さが)れる
犢鼻(たふさぎ)とは「ふんどし」のことで、一首の意味は「夫が褌にする丸い石のある(?)吉野の山に魚がぶら下がっている」というもの。
この歌の作者安倍子祖父(あべのこおおじ)は、これらの歌を詠んだことによって、賞品として銭二千文(もん)を与えられたと伝えられています。
ううむ、このような歌が作れるというのは、別な意味でのセンスが必要と思われますね。
万葉集の面白い歌4 酒
万葉集の和歌には宴会で披露された歌が多くあります。
宴会と言えばお酒ですが、もちろんお酒に関する歌もあります。
あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
読み:あなみにく さかしらをすと さけのまぬ ひとをよくみば さるにかもにむ
作者は大伴旅人(おおとものたびと)。元号令和の序文の作者です。
ちなみに、万葉集に猿を詠んだものはこの歌のみです。
歌の意味は「ああ見苦しい 懸命ぶって酒を飲まない人を見ると、猿にでも似て居るようだ」というもので、酒を飲まない人、そしてまじめな人、堅苦しい人を揶揄する内容となっています。
大伴旅人の酒を詠んだ一連の和歌「酒をほむる歌」はとても有名です。
そこからもう一首
なかなかに人とあらずは酒壷に成りにてしかも酒に染(し)みなむ
読み:なかなかに ひととあらずは さけつぼに なりてしかも さけにしみなむ
意味は「なまなかに人間であるよりは酒壺になってしまいたい。そうしたら酒に浸っていられるだろう」というもの。
それにしても「壺になってしまいたい」というのですから、旅人はとても酒好きだったんですね。
ただおそらくこの歌は中国の漢詩に倣ったもので、そのような教養に裏打ちされた歌ともいえます。
関連記事:
験なきものを思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし 大伴旅人「酒を讃むる歌」
万葉集の面白い歌5 題詠
万葉集のおもしろい歌、次は宴会の題詠の一首です。
さし鍋に湯沸かせ子ども櫟津の檜橋より来む狐に浴むさむ
作者は長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)(16-3824)。
意味は「子どもよ、さし鍋に湯を沸かしなさい、櫟津の檜橋からくる狐に浴びさせよう」というものなのですが、ちょっと変ですね。
実はじれは題詠の一首で、狐の鳴き声、食器、用具、橋、川の5つを詠み込んで作りなさいという題詠だったのです。
そのうち、狐の鳴き声がどこに入っているかわかりますか。
「櫟津の檜橋より来む」の「来む」の部分、「む」は「ん」と発音されますので、この部分の音「コン」が狐の鳴き声となります。
この連作は、同じ作者が8首を詠んでいます。
そのうちの一首
池神の力士舞かも白鷺の桙啄ひ持ちて飛び渡るらむ
読みは、いけがみの りきしまいかも しらさぎの ほこくいもちて とびわたるらむ
意味は「池上社の力士舞だろうか。白鷺が鉾をくわえて飛び渡っている姿は」。
現代ではなかなかわかりにくいのですが、力士舞は男性の力士が女性に懸想、求愛する仮面劇の舞といえばおもしろさが伝わるかもしれません。
金剛力士の面をかぶった踊り手が「桙」を持って美女を追いかける怪物を打つのですが、棒を加えたシラサギから其の力士の姿を浮かべているのです。
万葉集の面白い歌6 恋愛
最後におもしろい歌として恋愛の歌からも一首を選びましょう
うましものいづく飽かじを尺度(さかとら)が角のふくれにしぐひ合ひにけむ
作者は、児部女王(こべのおおきみ)。
意味は「美しい女はどんな相手だって結婚できるのに 尺度(さかとら)のような娘が角に住む太った醜男と結ばれるとは」。
知っている女性の名前が尺度(さかとら)で、その女性を惜しんでいるのかとも思われますが、「ふくれ」というのは、どうやら太った男の人であったようですね。
旦那さんの容貌をおとしめているところをみると、結婚した友人をやっかんでいるのかもしれません。
和歌というととかく堅苦しいイメージがつきものですが、このような歌も収録されているというところ、撰者の好みが反映されていて面白いところと言えます。
関連記事:
万葉集の恋の和歌30首(1)額田王,柿本人麻呂,大津皇子,石川郎女
万葉集にも面白い歌があるということは意外かもしれませんね。
万葉集に歯は他にもいろいろな歌があります。
わかりにくいと思われがちですが言葉が古い言葉であるだけで、内容はやはり人の心にもとづくものです。
古代も現代も変わりない思いの込められた和歌をどうぞ読んでみてくださいね。