万葉集の三大部立とは、相聞(そうもん)、挽歌(ばんか)、雑歌(ぞうか)の3つのジャンルを指します。
万葉集三大部立とそれぞれの特徴と内容、代表的な和歌の例を交えて解説します。
万葉集の三大部立とは
万葉集に収録されている歌は、大別して相聞歌(そうもんか)、挽歌(ばんか)、雑歌(ぞうか)、の三つのジャンルに分けられます。
これを万葉集の「三大部立」といいます。
相聞歌は主に恋情を詠んだもの、挽歌は死者を悼む歌です。
雑歌は、上の相聞と挽歌以外の歌で、具体的には宮廷関係の歌、旅で詠んだ歌や自然を詠んだ歌、他に伝説を題材とした歌など多岐にわたります。
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部立の内容
部立の内容をまとめると
相聞 | 男女の恋を詠み合う歌 |
挽歌 | 葬送 死を悲しむ歌 |
雑歌 | 宮廷関係 行幸 宴会、旅の歌、自然、伝説 |
三大部立の和歌の数の内訳
各部立の数は以下の通りです
相聞 | 1750首 |
挽歌 | 218首 |
雑歌 | 相聞・挽歌に属さないすべての歌 2532首 |
※万葉集全体は約4500首
一つの感にまとまっているのではなく、年代の異なる各巻それぞれの要所に上のようなタイトルでまとめられている形になっています。
三大部立の歌の例
それぞれのジャンルの歌の例です。
相聞の例
わが背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にもわれなけなくに 安部女郎
挽歌の例
磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまたかへり見む 有間皇子
有間皇子は「結び松」の歌として、柿本人麻呂の歌は泣血哀慟歌(きゅうけいつあいどうか)としてそれぞれよく知られています。
雑歌の例
熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな 額田王
雑歌は万葉集のほとんどの歌で、例えば巻1は全部雑歌で占められています。
万葉集の2大ジャンル「相聞と挽歌」
万葉集の研究をされている久松潜一先生は、相聞と挽歌が万葉集の主軸となっている理由を次のように述べています。
万葉人の愛──万葉時代人の人間的自覚は、人間を愛することと、人間の死を悲しむことに切実に現れています。万葉集の和歌の分類が恋の歌などを贈答する相聞、葬式のときにうたう挽歌を2つの主軸として、これ以外の種々の場合を雑歌としているのは、愛と死とが、人間にとって最も重大な点であると考えたからでしょう。 ── 久松潜一 『万葉集入門』より
万葉集の「雑歌」の「雑」とは
「雑」という字は、現代では、あまり良いイメージでを持っていませんが、この場合の「雑」は、古代中国の辞書の「五采相い合うなり」とか、(五色の彩りが一つになる)とか「最なり」(第一のもの)を意味するものだそうです。
年のはじめの「雑煮」もこの「雑」の意味です。
万葉集の雑歌は雑多なジャンルには違いありませんが、むしろ一つのカテゴリーに規定するよりももっと豊かな色合いをなしています。
相聞歌、挽歌、それ以外の歌が「雑歌」ではあっても一番豊かな歌の集まりが、「雑歌」のジャンルともいえます。
それ以外の万葉集の部立
万葉集には三大部立以外の部立もあり、他には
・賀…長寿を祝い祈る歌
・離別…地方赴任の官人たちをネグる別れの歌
・羇旅(きりょ)…官人たちの旅での歌
・物名(もののな)…隠し題のツあ
・哀傷…死を悲しむ歌
・雑…老齢、無常、不遇を嘆く歌
のように細分化されています。
以上万葉集の部立について解説しました。