直喩と隠喩、比喩には2つの種類があり、「ごとく」や「ように」の語を使うか使わないかで違いが分けられます。
直喩と隠喩のそれぞれの定義と、短歌や和歌の例を提示します。
スポンサーリンク
比喩とは
比喩というのは、物事の説明や描写に、ある共通点に着目した他の物事を借りて表現することをいいます。
比喩を用いた表現のこと、それ自体を比喩と呼ぶこともあります。
比喩の目的
比喩の目的は大きく分けて2つあります。
ひとつは、物事を直接に描写・叙述・形容せずに、たとえを用いて理解を容易にすることが目的です。
もう一つは、詩歌において、比喩は表現に味わいを加える修辞法として用いられています。
比喩の例
日常生活でも比喩は使われます。
「お月様のように真ん丸な」というと、ただ「丸い」というよりもイメージがしやすくなります。
また、単に「丸い」というだけではなくて、そこにはない「月」のイメージを加えイメージを広げることができます。
短歌などの詩歌では、この後者の効果をもたらす表現として比喩は表現技法として多く用いられています。
比喩の種類
比喩の種類、ここでは、詩歌でよく使われる直喩と隠喩について説明します。
直喩とは
直喩(ちょくゆ)とは「~のようだ(ように)」などのたとえを表す言葉が使われているたとえ方をいいます
短歌や和歌では、「ごとく」「ごとし」が使われる他、古い時代には「ごと」も用いられます。
現代の言葉では「ように」も用いられます。
例:りんごのように赤い頬
隠喩とは
対して隠喩とは、「ごとく」「ごとし」「ごと」を使わずに、たとえるものを並置する語法です。
例:りんごの頬
直喩と隠喩を使った短歌の例を見ていきましょう。
直喩の短歌の例
直喩の短歌や和歌の例をご紹介します。
「ごとし」の直喩の例
ゆふぐれの泰山木の白花はわれのなげきをおほふがごとし
斎藤茂吉の短歌。「つゆじも」より。
意味と現代語訳は
夕暮れ時の泰山木(たいざんぼく)の白い花は、私の嘆きを覆うようだ
作者のつらい気持ちを「覆い隠すようだ」として、大きな柔らかい花の様子を表しています。
何がなしに頭の中に崖ありて日毎に土のくづるるごとし
読み:なにがなしに あたまのなかに がけありて ひごとにつちの くずるるごとし
作者と出典:石川啄木 「一握の砂」
現代語訳と意味は
どことなく頭の中に崖があって、毎日その崖の土が崩れていくように思えるのだ
崖はそこにあるものではありませんが、頭の中、つまり作者の気分を表すのに崖が崩れていく様子を比喩として用いています。
「ように」の直喩の例
冬の空針もて彫りし絵のように星きらめきて風の声する
読み: ふゆのそら はりもてほりし えのように ほしきらめきて かぜのこえする
作者と出典:与謝野晶子
現代語訳は
冬の澄んだ空気の満ちる空に、針の先で彫ったような星が散らばって輝ききらめいて、風の吹き過ぎる音がする
星を「誰かが彫ったもの」と見立てて、その細かさや数の多さを表しているのです。
隠喩の短歌の例
ここからは隠喩の短歌の例をあげます。
向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ
読み:
ひまわりは きんのあぶらを みにあびて ゆらりとたかし ひのちひささよ
作者は前田夕暮『生くる日に』より。
現代語訳と意味は
向日葵は金の油のような光を全身に浴びて、ゆらりと背が高い。その上に照る日の小さいものだ
「金の油」は日光の比喩であり、直喩です。
これを隠喩にすると「金の油のような陽の光」となります。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
読み:あしびきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
柿本人麻呂の作とされている。
現代語訳と意味は
山鳥の長く垂れた尾のように長い長い夜を、寂しく一人寝をするのであろうか
「ごとく」や「ように」はありませんで「しだり尾の長い夜」と直接につなげています。
なごの海の霞の間よりながむれば入日をあらふ沖つ白波
作者と出典
後徳大寺左大臣 (藤原実定) 巻第一 春歌上 35
現代語訳と意味は
なごの海にかかる霞の間から眺めると、今波間に入ろうとする夕日を洗うかのように見える沖の白波よ
沈む太陽に波がかぶさって見える情景を「夕日を洗うように」の「ように」を省いてそのまま表現して印象を強めています。
比喩表現のまとめ
短歌や俳句の詩歌における比喩は、表現に無限の幅を与える大切な表現技法のひとつです。
他の短歌でも類似の表現を見つけたらよく読んで味わってくださいね。
記事一覧:
掛詞とは 和歌の表現技法の見つけ方
縁語のベスト20一覧 有名な例と解説
枕詞とは 意味と主要20一覧と和歌の用例
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
本歌取りの有名な和歌の例一覧 新古今集・百人一首他