藤原定家の和歌作品、一番有名なものは「三夕の歌」を含めた3首があります。
藤原定家の代表作と、その他にも有名でよく知られた和歌を一覧でまとめます。
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藤原定家の和歌一覧
藤原定家は、鎌倉時代の代表的な歌人の一人で、生涯に詠んだ歌の数は判明しているもので、3945首あるとも言われています。
その中から定家の和歌の代表作品を選び、現代語訳をつけて、以下に一覧にまとめます。
各短歌の詳しい解説は、リンク先の個別詳細記事にてご覧ください。
藤原定家の代表作品トップ3首
定家の代表作として、あえて3首を選ぶとしたら、下の3つがあげられます。
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ
こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの身もこがれつつ
春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空
新古今和歌集より。真ん中の歌は百人一首にも採られています
一首ずつ現代語訳を記します。
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ
読み:あきののの みくさかりふき やどれりし うじのみやこの かりいおしおもほゆ
作者と出典
藤原定家 新古今和歌集 秋上363
現代語訳と意味
あたりを見渡すと、桜の花はもとより、紅葉の彩りすら目に触れないのだよ。漁師の仮小屋の散らばる浦の秋の夕暮れは
解説のワンポイント
藤原定家の代表作品。そこにはない桜の花と紅葉を提示した上で、現在の風景の侘しさを際立たせるという巧緻な内容です。
※詳しい解説を読む
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ 藤原定家「三夕の歌」
こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの身もこがれつつ
読み:こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
作者と出典
権中納言定家 (藤原定家) 新勅撰849 百人一首97番
現代語訳:
松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように、私の身は来てはくれない人を想って、恋い焦がれているのです
解説のワンポイント
定家が編纂した百人一首に自ら選んだ歌。
単に相聞(恋愛)の歌というだけではなく、掛詞を駆使した技巧的な和歌となっています
※詳しい解説を読む
こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの身もこがれつつ 藤原定家
春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空
読み: はるのよの ゆめのうきはし とだえして みねにわかるる よこぐものそら
作者と出典
藤原定家
新古今和歌集 巻第一 春歌上 38
現代語訳と意味
春の夜の、浮橋のようなはかなく短い夢から目が覚めたとき、山の峰に吹き付けられた横雲が、左右に別れて明け方の空に流れてゆくことだ
解説のワンポイント
新古今集の定家の代表作の一つ。
夢幻を詠うロマン性あふれる美しい歌として、愛唱されています。
※詳しい解説を読む
春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空 藤原定家
藤原定家の他の和歌作品
それ以外の藤原定家の和歌作品です。
梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
現代語での読み:うめのはな においを うつす そでのうえに のきもる つきの かげぞ あらそう
作者と出典
作者:藤原定家 新古今和歌集 巻第一 春歌上 44
現代語訳と意味
梅の花が匂いを移している私の袖の上に、軒端をもれてさし入る月の光が上の匂いと競い合って映っている
詳しい解説記事:
梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ 藤原定家
霜まよふそらにしをれし雁が音のかへるつばさに春雨ぞ降る
読み:しもまよう そらにしおれし かりがねの かえるつばさに はるさめぞふる
作者と出典
藤原定家 新古今和歌集 巻第一 春歌上 63
現代語訳と意味
霜が乱れ降る越路の空でぬれよわっていた雁の、その帰途の翼に今春雨が降っている
解説
霜とあっても、「新古今の春歌」の項に掲載されている通り、春浅いころの風景を詠んだ歌です
帰るさのものとや人のながむらん待つ夜ながらの有明の月
読み:かえるさの ものとやひとの ながむらん まつよながらの ありあけのつき
作者と出典
藤原定家 新古今集 1206
現代語訳
他の女性のところから帰るときの月として、あの人はこの月を眺めているのでしょうか。あの人の来るのを待って夜が明けてしまい、有明の月として私は眺めていますのに
解説
「有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし」の本歌取りの歌。
この歌の本歌は
有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし 壬生忠岑
※この歌の詳しい解説
帰るさのものとや人のながむらん待つ夜ながらの有明の月 藤原定家
駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野のわたりの雪の夕暮れ
読み:こまとめて そでうちはらう かげもなし さののわかりの くものゆうぐれ
作者と出典
作者:藤原定家 新古今和歌集 巻六 冬歌 671
現代語訳と意味
馬をとめて、袖の雪を払い落とすような物影すらない。佐野の渡し場の雪の夕暮れどきよ
解説
万葉集「苦しくも降りくる雨か三輪が崎佐野のわたりに家あらなくに」の本歌取りの歌。
※この歌の詳しい解説
駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野のわたりの雪の夕暮れ
ゆきなやむ牛のあゆみにたつ塵の風さへあつき夏の小車
読み:ゆきなやむ うしのあゆみに たつちりの かぜさえあつき なつのおぐるま
作者と出典
作者:藤原定家『玉葉集』
現代語訳と意味
訳:のろのろと進まない牛の歩みに塵を舞いあげて風が立つ。その風さえ暑い夏の牛車よ
解説のワンポイント
現代の夏の暑さもさながら、大昔から暑さには誰しもが難儀していたとみえます。
関連記事:
災害の短歌 水害や暑さ 源実朝,藤原定家他
もろ人の儺(なやら)ふ音に夜はふけてはげしき風に暮れはつる年
読み:もろひとの なやらうおとに 余はふけて はげしきかぜに くれはつるとし
作者と出典
藤原定家『拾遺愚草』
現代語訳と意味
意味:大勢の人々が鬼やらいをする音声に夜は更けてゆき、木枯らしの激しい風に暮れ果ててゆくこの年なのだ
解説のワンポイント
豆まきの歌。節分近くなると良く引用されます
関連記事:
節分の短歌・和歌 鬼と豆まき 藤原定家,橘曙覧,斎藤茂吉,与謝野晶子他
その他にも
山櫻心の色をたれ見てむいく世の花のそこに宿らば
桜色の庭の春風あともなし問はばぞ人の雪とだに見む
春をへてみゆきになるる花の陰ふりゆく身をもあはれとや思ふ
あくがれし雪と月との色とめてこずゑに薫るはるのやまかぜ
年も経ぬいのるちぎりははつせ山尾上のかねのよその夕ぐれ
霜まよふそらにしをれし雁が音のかへるつばさに春雨ぞ降る
白妙のそでのわかれに露おちて身にしむ色のあきかぜぞ吹く
鳥はくも花はしたがふ色つきてかぜさへいぬる春のくれがた
空蝉のゆふべの声はそめかねつまだ青葉なる木木のしたかげ
藤原 定家について
藤原 定家(ふじわら の さだいえ/ていか)は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公家・歌人。
読みは「ていか」と読まれることが多い。父は藤原俊成。
日本の代表的な新古今調の歌人。『小倉百人一首』の撰者。
作風は、巧緻・難解、唯美主義的・夢幻的といわれている。
以上、鎌倉時代のすぐれた歌人である、藤原定家の代表作品とその他の和歌をご紹介しました。