紫陽花が風景に彩を添える梅雨の季節となりました。
今日の日めくり短歌は、紫陽花の短歌を近代短歌より鑑賞していきます。
紫陽花の短歌
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紫陽花は草花でなく、落葉低木の一種。
大きなものは人の背の高さほどとなり、小花が集まった大きな房状の花をつけます。
歴史は古く万葉集の和歌にも詠まれたものがありますが、なぜかわずか2首ほどしか読まれていません。
万葉集の後の古今集から新古今集までの間に編纂された歌集八代集にも、紫陽花を詠んだ歌は見当たらないのですが、それもとても不思議に思えることですね。
近代短歌には紫陽花を詠んだものはたくさん見つかりますので、ご紹介します。
※併せて読みたい
梅雨の有名な短歌
正岡子規の紫陽花の短歌
正岡子規の紫陽花の歌は「竹の里歌」より下のような歌があります。
夕立のはるる跡より月もりて又色かふる紫陽花の花
月明かりに紫陽花が見えて、色が変わったことがわかるという子規らしい観察眼のうかがえる歌です。
紫陽花の色の変化を月の光とセットになっているのが美しいです。
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石川啄木の紫陽花の短歌
石川啄木の紫陽花の歌は「明星」に投稿されました。
昨日より色のかはれる紫陽花の瓶をへだてて二人かたらず
紫陽花の色が変わっている。
そしてそれに向かい合う二人の内面が示唆されている静かな雰囲気の歌です。
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与謝野晶子の紫陽花の短歌
紫陽花も花櫛したるかしらをばうち傾けてなげくゆふぐれ
与謝野晶子は女性らしい視点で紫陽花を詠んでいます。
花櫛は髪飾りのことですが、紫陽花の花を髪飾りに見立てて、花房を人の頭にたとえています。
古典的な雰囲気の歌です。
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若山牧水 の紫陽花の短歌
紫陽花のその水いろのかなしみの滴るゆふべ蜩のなく
若山牧水の歌集『別離』より。
恋人との別れを詠った歌集ですが、「水いろのかなしみ」という視覚化により、作者の憂いが伝わります。
紫陽花の花をぞおもふ藍ふくむ濃きむらさきの花のこひしさ
若山牧水 『黒松』。
こちらも下句に紫陽花の花の色が詠まれています。
他に
家のうち机のうへの紫陽花のうすら青みのつのる真昼日
も、牧水の着眼点がわかります。
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古泉千樫 の紫陽花の短歌
まひる日にさいなまれつつ匂ひけりやや赤ばめる紫陽花のはな
古泉千樫 『屋上の土』より。
紫陽花に日が当たっている情景。
「匂う」は花が「美しく咲いている」ということで、香りではない紫陽花の花色にポイントがあります。
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北原白秋 の紫陽花の短歌
留まらむとして紫陽花の球に触りし蝶逸れつつ月の光に上る
北原白秋『雀の卵』より。
白秋の耽美的な情景を詠んだ歌。
紫陽花に触れるか触れないかの蝶の仕草が細かく詠まれています。
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斎藤茂吉の紫陽花の短歌
病監の窓のしたびに紫陽花が咲き折をり風は吹き行きにけり
斎藤茂吉の紫陽花の歌はあまり見られませんで、歌集『赤光』に上の歌が思い出せます。
自分の勤務していた病院の風景です。
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佐藤佐太郎の紫陽花の短歌
あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼
佐藤佐太郎の有名な歌。
下句に2つの枕詞とその対句が入っています。
夜と昼を対照させて時間の経過を盛り込んでいるので奥行きがあります。
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津田治子の紫陽花の短歌
紫陽花のはな傾きて降る雨によごれし笊(ざる)をうたせつつをり
作者は津田治子。
紫陽花の花がかしぐくらいの強さの雨に、ざるを表せている場面です。
現代短歌の紫陽花の歌
現代短歌の紫陽花の歌もついでにご紹介します。
森駈けてきてほてりたるわが頬をうずめんとするに紫陽花くらし
作者寺山修司。
解説ページは
森駈けてきてほてりたるわが頬をうずめんとするに紫陽花くらし 寺山修司
愛されたくて駆けてゆく六月、サンダル、あじさいの花
作者:俵万智
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紫陽花の短歌まとめ
紫陽花の短歌に共通するポイントはやはり紫陽花の色、それと花色の変化にあります。
梅雨の間に観察を重ねて、歌に詠んでみたいものですね。
きょうの日めくり短歌は紫陽花の詠まれた短歌をご紹介しました。
それではまた!
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