梅雨の有名な短歌  

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梅雨の有名な短歌

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梅雨の短歌、梅雨を表す長雨や五月雨の有名でよく知られている短歌を、万葉集、古今集、近代短歌よりご紹介します。

梅雨の短歌

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短歌は季節の歳時記、古代からさまざまな季節と風物が詠み込まれてきました。

梅雨の長雨もこれまで多くの歌人が題材として詠んでいます。

万葉集の梅雨の短歌

日本で一番古い歌集の万葉集には、雨はあっても「梅雨」の言葉はまだありません。

梅雨のような長雨を詠んだ短歌は次の歌が挙げられます。

卯の花を腐(くた)す長雨(ながめ)の水始(みずはな)に寄る木屑(こつみ)なす 寄らむ子もがも

作者大伴家持  巻19-4217

意味は、

「卯の花を腐らせるような梅雨の長雨の出水に寄る木くずのように、私に寄りそう娘が欲しい」

というものです。

「水始(みずはな)」は、この時代の言葉で「出水」、大雨などのため、河川、湖沼の水があふれること、そこに集まる木くずの「寄る」を共通の言葉として、若い女性への思慕につなげているのです。

 

万葉集の紫陽花の短歌

梅雨の代表的な花である紫陽花の短歌は、万葉集では下の二首があります。

紫陽花の八重咲くごとく八つ代にいませ我が背子見つつ偲はむ 橘諸兄

言問はぬ木すら紫陽花諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり 大伴家持

各歌の現代語訳と解説のページは

紫陽花の万葉集の和歌は2首 大伴家持の紫陽花の短歌

 

古今集から梅雨の短歌

「梅雨」という言葉は今ではそれ自体が季節を表す言葉として用いられていますが、短歌の場合は必ずしも「梅雨」ではなくて、「長雨」や「五月雨」が梅雨を表していることが多くあります。

古今集では下の歌が最もよく知られています。

五月雨に物思ひをれば時鳥(ほととぎす)夜深く鳴きてづち行くらむ

作者:紀友則

一首の意味は

五月雨に物思いにふけっていれば、ホトトギスが夜遅く闇の深くに鳴いているが、いったいどこに行くのだろう

自らの物思いのとりとめのなさを、ホトトギスのゆくえに例えているというものです。

紀友則の代表作短歌は

 

古今集の紫陽花の歌

ちなみに、古今集の時代には、紫陽花の歌はほとんど詠まれていなかったようで、集内にも採られた歌がありません。

わずかに『拾遺愚草』の藤原定家の歌と他一首が、この時代に紫陽花を詠んだ歌として知られている程度です。

あぢさゐの下葉にすだく蛍をば四ひらの数の添ふかとぞ見る

蛍を紫陽花の花びらと並べたもの。

蛍との取り合わせも美しく、魅力的な紫陽花の花ですが、なぜかこの時代には歌の題材にはそれほど好まれなかったようですね。

 

近代短歌の梅雨の歌

ここから先は、近代短歌の中から梅雨の短歌をご紹介します。

梅雨入りを詠う

梅雨の最初が「梅雨入り」です。

重々ととよみはじめて夜明けたる梅雨入空に啼くほととぎす

作者: 斎藤茂吉 『霜』より

梅雨入空」は茂吉の造語。

「とよみ」というのは響きのことで、これは鳥の声のことでしょうが、梅雨空の重々しさも同時に表しています。

 

梅雨のさ中を詠う

梅雨の最中の様子も様々にとらえられます。

年老いて吾来りけりふかぶかと八郎潟に梅雨の降るころ

斎藤茂吉 『白き山』

梅雨の季節に八郎潟を訪れた作者。

「ふかぶかと」が梅雨空の雰囲気を伝えています。

 

吾庭の梅雨の雨間の花どころ藜(あかざ)しげりて青がへる啼く

北原白秋 『風隠集』

庭の植物が梅雨の間に花開く隣に蛙が鳴いて居るという庭の様子です。

 

にはとりの卵の黄味の乱れゆくさみだれごろのあぢきなきかな

作者:斎藤茂吉 歌集『赤光』

「さみだれ」6月作一連の歌の中にあります。

梅雨時には鶏の卵にも変化があるとのことで、繊細な感覚を伝えています。

また、「黄身のみだれ」を「さみだれ」と韻を踏むように使っています。

 

梅雨の晴れ間を詠う

梅雨の晴れ間は、印象に深いのでしょう。こちらも多く詠まれています。

五月雨の晴れ間に出でて眺むれば青田涼しく風わたるなり

作者は、良寛和尚。

「五月雨の晴れ間」というのが、梅雨の晴れ間のこと。貴重な日の光であったのですね。

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梅雨晴の午後のくもりの天地のつかれしなかにほととぎす啼く

作者:若山牧水 『獨り歌へる』より

こちらは、たまさかの梅雨晴れではあっても、いかにもあたりがぐったりしたように見える梅雨の湿った重々しい空気を伝えています。

 

樹々の間に白雲見ゆる梅雨晴の照る日の庭に妻は花植う

作者:若山牧水 『獨り歌へる』より

梅雨の晴れ間にいそいそと庭に出る楽しげな妻の様子ですが、牧水はこの「妻」と呼んでいる女性とは結局結婚はしませんでした。

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梅雨明けを詠う

梅雨明けは、雨から解放され、人の喜びを誘います。

梅雨晴の風やや強く吹きにけり折るるかと思ふ鬼百合の花

立ちおほふ雲のひまより青空のわつかに見えて梅雨明けんとす

作者:正岡子規 『竹乃里歌』より

二首目の「わつかにみえて」は「わっか」。

雲のひま=隙間から輪のように青空が見えているという情景です。

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梅雨さりぬ先づはなだ草初夏の瞳を上げてよろこびを云ふ

作者:与謝野晶子 『常夏』

梅雨明けを詠んだ与謝野晶子の歌。

下句が単純ですが、「初夏の瞳」と相貌が晴れやかに輝いているのであったのでしょう。

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以上、古典和歌と近代短歌から、有名でよく知られる梅雨の歌をご紹介しました。




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