クリスマスの短歌、クリスマスにまつわる事物を題材にした短歌にはどのようなものがあるでしょうか。
今日は、クリスマスというイベントとその周辺が詠み込まれた短歌、様々な歌人の詠んだ冬の短歌を、近代、現代の短歌からまとめてみました。
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クリスマスの短歌まとめ
クリスマスは元々欧米でのお祭りですが、日本に輸入されて、宗教色を排しながらもイベントとして定着しています。
クリスマスにまつわる事物を題材にした短歌にはどのようなものがあるでしょうか。
今日は、クリスマスというイベントとその周辺が詠み込まれた短歌、様々な歌人の詠んだ冬の短歌を、近代、現代の短歌からまとめてみました。
クリスマス、降誕祭、聖夜、ノエルなどの言葉、樅の木や電飾などクリスマスの事物は、自分でも歌を詠むときの参考になさってください。
冬の短歌はこちら
クリスマス・ツリーを飾る灯の窓を旅びとのごとく見てとほるなり
作者:大野誠夫『薔薇祭』
クリスマスの短歌というと、短歌で多く引用されるのは、大野誠夫の短歌ではないでしょうか。
戦後の復興時期に詠まれた作品を集めたこの歌集では、まだ日本の貧しさが浮き彫りになっています。
他にも、
降誕祭ちかしとおもふ青の夜曇りしめらひ雪ふりいづる
作者:大野誠夫『薔薇祭』
こちらは、近づいてくるクリスマスを前に降り出した雪のことを詠っています。
「青の夜」というのが印象的な言葉です。
樅(もみ)の木の灯の明滅をめぐりつつ人は踊れり窓の内側
26年作『山鴫』より
詩人や歌人は、どうしてもこのような華やかな場に参加するのではなくて、外側から俯瞰するという立ち位置で語られることが多いようです。
歌の言葉を見ると、「クリスマス」の語の他にも「降誕祭」という日本語の正式名称があります。
それと「樅の木」など、クリスマスに使われるものが詠み込まれており、クリスマスの雰囲気が伝わります。
ひび黒き茶碗と箸を取り出してひとり降誕祭(ノエル)の夜を送れり
作者:山崎方代
こちらもクリスマスと貧しさを対照させて詠った歌です。
傷痍軍人で目を悪くしていた作者は、職には就かなかったようです。
「ノエル」は、フランス語のクリスマスのこと。
紅にひひらぎそよご色づきて冬の祭りせむ幼は遠し
作者:土屋文明
土屋文明は植物好きなことで有名で、庭にも柊、それからソヨゴなどが植えてあったのでしょう。
クリスマスに使われるものだと知っていて、遠くに住む孫たちに見せたいな、と思ったのでしょうか。
ちなみに、斎藤茂吉には、「ひひらぎの白き小花(こばな)の咲くときにいつとしもなき冬は来むかふ/齋藤茂吉『暁紅』」というのがあるので、柊の花というのは、白い花のようです。
土屋文明の短歌代表作品と名言「生活即短歌」戦後歌壇とアララギを牽引
ニコライ堂この夜よ揺りかへり鳴る鐘の大きあり小さきあり小さきあり大きあり
作者:北原白秋
クリスマスの鐘の音を詠う作者。晩年は視力を失い、耳で敏感にとらえたものを歌にしました。
待つ人はつねに来る人より多くこの町にまた聖夜ちかづく
作者:小島ゆかり
クリスマスの日に、待ち合わせをする人を見て歌った歌。
クリスマスの町の雰囲気も独特なものがあります。
裸木の公孫樹は電飾に飾られて眠れずあらん降誕祭前後
作者:尾永さえ子
クリスマスで、印象的なものは、やはりイルミネーションでしょう。
街路樹の銀杏の木が電飾を巻かれて、夜遅くなってもまばゆい光に取り巻かれている。
「眠れない」と擬人化して考えたところがおもしろいところです。
入口に夫を待たせて靴を買ふ降誕祭の電飾うつくし
作者:栗木京子
クリスマスの日の自分へのプレゼントでしょうか。
デパートの入り口の電飾を見るための「夫を待たせて」がポイントです。
口笛でクリスマス・キャロルを奏ずれば更に寂しき聖夜のプリズン
作者:郷隼人
クリスマスキャロルは、クリスマスに歌われる讃美歌を指します。
アメリカの刑務所で服役中の日本人、郷さんは朝日新聞の常連の投稿者として知られています。
クリスマスはアメリカの方が、大々的なイベントなのですが、それを制限の多い刑務所内で祝うという作者独特の悲しみです
下総のかの町辻の教会の思はるるかな聖夜を唱へば
作者:田谷鋭
作者は、千葉県千葉市寒川町生まれで、下総はその辺り一帯の呼び名です。
教会での合唱はいつも印象的なものですが、故郷でのクリスマスの思い出のよみがえる瞬間を詠っています。
声変りしつつある故唱へぬをあはれがるころキャロルは終る
作者:岡井隆
少年時代は聖歌隊にいた作者。
教会で讃美歌を歌うのにも、声変わりで加われなくなってしまった、少年期をクリスマスと重ねた歌です。
約しある二人の刻を予ねて知りて天の粉雪降らしむるかな
こちらはクリスマスの歌とは限りませんが、やはりクリスマスを思わせる歌です。
待ち合わせをしながら空を見上げる作者の姿が浮かびます。
解説記事:
約しある二人の刻を予ねて知りて天の粉雪降らしむるかな 岡井隆【日めくり短歌】
柊の飾りすがしき聖夜の町さらぼふ犬とわれと歩める
作者:岡野弘彦『滄浪歌』
さらぼうというのは、やせ衰える、やせて骨と皮ばかりになること。
体よりも心に苦しみがある状態を、柊の飾られている聖夜と対照させています。
トナカイがオーバーヒート起こすまで空を滑ろう盗んだ橇で
作者:穂村弘
空想のトナカイを詠った豊かな歌。
映像の世代に育った年代の人の読むファンタジックな光景です。
他にも
神は死んだニーチェも死んだ髭をとったサンタクロースはパパだったんだ
クリスマスの炬燵あかくておかあさんのちいさなちいさなちいさな鼾
灰色の手袋を買ふ この国のいたくぶあつき降誕祭に
作者:笹井宏之
クリスマスの贈り物として買った、ぽってりした毛糸の手袋が目に浮かびます。
ユーモラスでほほえましい歌ですね。
終わりに
クリスマスは今や日本でも冬の風物詩、家庭での様子や町の雰囲気など、なんでも目についた題材で、ぜひ短歌を詠んでみてくださいね。