筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに 在原業平の「伊勢物語」の「筒井筒」より有名な和歌の現代語訳、品詞分解と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
現代語での読み:つついつの いづつにかけし まろがたけ すぎにけらしな いもみざるまに
作者
作者:在原業平
※「伊勢物語」の和歌の解説は
出典:
出典:伊勢物語 23段 筒井筒
和歌の意味
筒井戸を囲う井筒の高さと測り比べた私の背丈はもう枠の高さを越してしまったようだ あなたに逢わないうちに
句切れ
- 4句切れ
修辞
- 倒置
- 音韻の連続
語句
・筒井・・・筒状の井戸
・「筒井つの」の「つ」・・・この「つ」については意味は不明で、音調を整えるために入れた語ではないかと考えられている。
・まろ・・・一人称「私」と同じ 平安時代以降に用いられた語
・たけ・・・背丈のこと
過ぎにけらしなの品詞分解
- 過ぐ・・・基本形
- に・・・完了の助動詞「ぬ」の連用形
- けらし・・・過去の助動詞「けり」の連体形+に推定の助動詞「らし」
- 「けるらし」⇒「けらし」と変化したもの
妹見ざるまにの品詞分解
- 妹・・・親しい女性を呼ぶ呼称
- 見る・・・マ行上一段活用 連用形
- ざる・・・基本形「ざり」打消しの助動詞連体形
- ま・・・「間」のこと 時間や日にちを表す
- に・・・格助詞
解説と鑑賞
伊勢物語の23段『筒井筒』に収録されている、章題の元となった和歌。
能「筒井筒」では、「筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 生(お)ひにけらしな 妹見ざる間に」と謡われている。
和歌の背景
この歌の説明は原文にある通り
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとにいでて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ、女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
現代語訳にすると
幼少時代、井戸の周りで遊んでいた幼馴染の男女がいた。2人は大人になってからは互いに顔を合わせるのも恥ずかしがっていた。男は胸の内では女を妻にしたいと思い、女もこの男を夫にしたいと思っていたので、親が他の人とめあわせようとしても聞かないでいたところ、男の元から(歌が届いた)
というもの。
和歌の内容
そのような思い出がある心に決めた相手との幼少からの絆を振り返り、二人の絆を確かめようとする歌。
あの頃一緒に遊んでいたことを覚えていますか」という回想に始まり、自分も大人になったこと、にもかかわらず相手に心を寄せていることを表している。
和歌の表現技法
「つついつの」の初句は意味がよくわからない「つ」を含めて、ツ音の連続で印象的な音を持って始まる。
「過ぎ」は掛詞ではないが、「背丈が」越えるの意味の「過ぎ」と、日月が「過ぎ」の両方の意味があるだろう。
「妹見ざるまに」は相手に贈った歌なので、あなたはどうしているだろうという今の様子を問うことを含み、懐旧の情を示していると考えられる。
在原業平について
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある歌の名手。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われる。
在原業平の他の代表作和歌
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを(古今851)
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは元の身にして(古今747)
名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思う人はありやなしやと(古今411)