手紙はかつて大切な通信手段でした。
和歌も古くは手紙に記されたり、手紙の代わりとして送られました。
きょうの日めくり短歌は、郵便制度施行記念日にちなみ、郵便と手紙の短歌をご紹介します。
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郵便制度施行記念日とは
東京・京都・大阪間で郵便業務が開始されたのは、1871年(明治4年)のこと。
この日が、郵便制度施工記念日とされています。
今では、手紙よりもメールが主流になってしまいましたが、電話もない時代は、手紙は大切な通信手段であったのです。
そして、郵便配達は、その頃は、郵便脚夫と呼ばれており、郵便は、おおむね徒歩で届けられていたようです。
その頃の郵便事情をうかがわせる短歌を二首あげます。
あまつさへキヤベツかがやく畑遠く郵便脚夫疲れくる見ゆ
作者:北原白秋 歌集『桐の花』
「郵便脚夫」は文字通り、徒歩で手紙を届ける人であったようです。
白秋の上の歌は、晴天の日の下、「疲れくる」配達人の様子を詠んでいます。
おそらくこのような風景は、当時はよく見かけるものだったのではないでしょうか。
郵便配達は、体力を使う仕事であったのです。
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外海(がいかい)にそへる並木路ひたはしる郵便脚夫の体ちひさし
作者:斎藤茂吉 歌集『あらたま』
海沿いの道を文字通り走って、配達をしている郵便配達人を詠んだもの。
広大な風景の中、郵便夫の身体が小さく見えるというのです。
「ひたはしる」に当時の配達夫の様子がしのばれます。
茨城県の平潟港を訪れた時の歌なので、この時の「外海」は、太平洋を指すのでしょう。
斎藤茂吉は、この頃、絵画にヒントを得た作品をたくさん詠んでいますので、これも絵画的な発想の歌です。
大きな画面に海とそれに沿う並木道をまず描き、そして、そこを走る小さな配達員の姿が小さく描かれる、そういう構図の歌です。
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他に、ツイッターにあげた、郵便に関わる歌として、手紙の詠まれた短歌を記しておきます。
たれが見ても われをなつかしくなるごとき 長き手紙を書きたき夕
作者:石川啄木『一握の砂』
普遍化された手紙の歌の佳作。
もっと具体的な体験に基づく下のような歌もあります。
朝はやく
婚期を過ぎし妹の
恋文めける文を読めりけり
長き文三年のうちに三度来ぬ
我の書きしは
四度にかあらむ
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あたたかき心こもれるふみ持ちて人思ひ居れば鶯のなく
作者:伊藤左千夫
うれしい手紙への心の呼応を、鶯の声になぞらえて表したものです。
伊藤左千夫は妻の他に恋人がいましたので、相聞の歌とも思われます。
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春雨にぬれてとどけば見すまじき手紙の糊もはげて居にけり
作者:長塚節
長塚節には、結核発病前に婚約をした女性がいました。その人から、治癒を待っているという励ましの手紙が届いたときの様子です。
「見すまじき」に節の気持ちがうかがえます。
実際には深い仲ではなく、見合いと見舞いで2回ほど会っただけなのですが、大切な女性の手紙であるということなのでしょう。
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現代短歌から手紙の歌
現代短歌から手紙の歌を引きます。
窓のひとつにまたがればきらきらとすべてをゆるす手紙になった
作者:穂村弘
おそらく別れた恋人への手紙でしょうか。美しい表現なのですが、「なった」のは、「窓のひとつにまたがった」からなのであり、本当は許せるような心境ではなかったのかもしれません。
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食べてから帰れと置き手紙、横に、炒飯、黄金色の炒飯
作者:小坂井大輔「平和園に帰ろうよ」
中華料理店の店主にして、歌人の作者。
黄金色の炒飯と共に、あたたかい置き手紙を残す場面です。
「置き手紙」というのがいいですね。
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泣き喚ぶ手紙を読みてのぼり来し屋上は闇さなきだに闇
作者:岡井隆
作者には、子供を残しての離婚もあったようで、婚外恋愛や、女性と出奔した経験もあります。
泣き叫ばれても仕方がないが、それがどうしようもない作者にとっては「闇」なのです。
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書き終へて手紙となりしいちまいのこころに朝の日は照り翳る
作者:栗木京子
手紙と心を同一化させた表現が目を引きます。「手紙を書き終えた」後の心に繊細に焦点を当てたところが素晴らしいです。
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一片の空にこと足りてあり経れば切切と君の手紙は届く
作者:酒井祐子
重い病気で入院中、窓しか見えず横たわるしかない作者。おそらく、集中治療室のようなところで受け取った手紙であったではないでしょうか。
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見えざればまして迫りて夕ぐれの海は一枚の手紙とおぼし
作者:柏原千恵子
優れた修辞と比喩を含む歌。
夕ぐれの海から音だけが聞こえてくる。その音を見えない海からの手紙として受け取るというものなのです。
老人ホームの入所中の歌のようで、、上句「見えざればまして迫りて」の、見えないために、かえって強く心を引かれるという自らの注意のあり方の気づきが素晴らしいです。
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きょうの日めくり短歌は、手紙と郵便の短歌をご紹介しました。
それではまた!
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