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蝉の短歌まとめ 万葉集と和歌 現代短歌 蝉の殻 空蝉 ひぐらし

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こんにちは。まるです。

継続して一首ずつ記しているの斎藤茂吉第二歌集「あらたま」の解説(斎藤茂吉「あらたま」短歌一覧 現代語訳付き解説と鑑賞))を書いていて、大正5年の作「橡の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く」という歌が目に入りました。

そういえば、もう少しで7月8日。今年も蝉が鳴き始める日も近づきました。

今日は蝉や蝉の殻である空蝉(うつせみ)、ひぐらしなどの詠まれた短歌を、万葉集から現代短歌まで広く集めてみました。

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蝉の短歌

蝉は地面に出てからの命が短いため、多く命の象徴とされることが多く、その点他の昆虫とは違った意味を持つモチーフです。

万葉集の蝉の歌

蝉も蜩も古代から生息し、歌にも詠まれていたようですが、当時は漢語の「蝉」を「ひぐらし」と考えていたらしく、万葉集では「蝉」ではなく、「ひぐらし」を詠んだ歌が多いとされています。

 

晩蜩(ひぐらし)は 時にと鳴けども 片恋に手弱女(たわやめ)我は 時わかず泣く

作者と出典:作者未詳 万葉集 巻10-1982

意味:ひぐらしは時間が来ると朝夕にに鳴くけれども、片思いに苦しんでいる女である私は時を分かたずに泣くのです

 

夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り  

作者と出典:秦間満はたのはしまろ 万葉集巻15-3589

意味:夕方になると蜩がて鳴く生駒山を越えて私はやってくる。愛しい人に会いたくて

 

古今集他より

ひぐらしの鳴く山里の夕ぐれは 風よりほかに訪ふ人もなし

作者と出典:よみ人しらず古今集105

意味:蜩の鳴くこの寂しい山里の夕暮れには、風より他に訪れる人も居ない

 

空蝉(うつせみ)のからは木ごとにとどむれど魂(たま)のゆくへを見ぬぞかなしき

作者と出典:よみ人しらず 古今和歌集 448

意味:蝉の殻はどの木にも留まっているけれど、その魂のゆくえを見ることがないのは悲しいことだ

 

近代短歌より

鳴く蝉を手握りもちてその頭をりをり見つつ童(わらべ)走(は)せ来る

作者と出典:窪田空穂 『鏡葉』

意味:鳴く蝉を手にもって頭を時々眺めながら、子どもが急いで走ってやってくる

 

鳴く蝉の命の限り鳴く声は夏のみそらにひびき泌みけり

作者と出典:岡本かの子

意味:蝉の限りある命の限り鳴く声は夏のそらに響いて沁みるのだなあ

みそらの「み」は接頭語。類似は現代語の「お空」。

 

橡(とち)の樹も今くれかかる曇日(くもりび)の七月八日ひぐらしは鳴く

作者と出典:斎藤茂吉「あらたま」

意味:橡の木も暮れかかっている曇りの今日7月8日蜩が鳴く

 

老いづきてわが居る時に蝉のこゑわれの身ぬちを透りて行きぬ

作者と出典:斎藤茂吉「つきかげ」

意味:老いて茫洋とした意識にあるときに、蝉の声が私の体を通って行った

 

油蝉しきなく庭のあをしばに散りこぼれたる白萩の花

作者と出典:長塚節

意味:油蝉がしきりに鳴いている庭の青い芝の上に散りこぼれた白萩の花よ

山は暮れて海のおもてに暫らくのうす明りあり遠き蜩

作者と出典:土田耕平「青杉」

意味:山は暮れて海の水面には薄明かりがしばらく残っている。ひぐらしの声が遠く聞こえる

 

 

杉群(すぎむら)に晝(ひる)のかなかな啼きいでて短く止みぬあやまちしごと

作者と出典:吉野秀雄 「晴陰集」

意味:杉林に昼間なのにかなかな蝉が鳴いて、すぐ鳴き止んだ。誤って鳴いたかのように

 

彼の世より呼び立つるにやこの世にて引き留むるにや熊蝉の声

作者と出典:吉野秀雄 「晴陰集」

意味:あの世から呼ぶのだろうか、この世に引き留めようとして鳴くのだろうか、熊蝉の声は

 

現代短歌より

以下は歌のみをあげます。

声しぼる蝉は背後に翳りつつ鎮石(しづし)のごとく手紙もちゆく 
黙(もだ)ふかく夕目(ゆふめ)にみえて空蝉の薄き地獄にわが帰るべし

作者と出典:山中智恵子『紡錘』

 

蝉のこゑしづくのごとくあけがたの夢をとほりき醒めておもへば 

作者と出典:高野公彦 「汽水の光」

 

しんしんとひとすぢ続く蝉のこゑ産みたる後の薄明に聴こゆ

作者と出典:河野裕子『ひるがほ』

出産後に蝉の声を聴いたという、厳粛で美しい出来事。

 

八月に 私は死ぬのか 朝夕の わかちもわかぬ 蝉の声降る  
子を産みしかのあかときに聞きし蝉いのち終る日にたちかへりこむ

作者と出典:河野裕子 『蝉声』

晩年の闘病生活に現れる蝉の声が詠まれた歌は、いずれも胸を打つものとなっています。

 

啞蝉(おしぜみ)が砂にしびれて死ぬ夕べ告げ得ぬ愛にくちびる渇く

作者と出典:春日井建 「未成年」

作者は今で言うLGBTの歌人で、同性との愛を歌に詠みました。独特のタブーとエロスを表す歌を早熟にも19歳で出版。

 

夜蝉一つじじつと鳴いて落ちゆきし奈落の深さわが庭にあり

作者と出典:馬場あき子

能に知悉していた作者。能では「奈落」とは劇場における舞台の下の空間を言います。
夜の庭から聞こえてくる声に、作者はふと奈落の深さを思うのですが、それが生と隣り合わせの死を思うことでもあるのでしょう。

 

わが胸にぶつかりざまに Je ジュ とないた蝉はだれかのたましいかしら

作者と出典:杉崎恒夫 「パン屋のパンセ」

Jeはフランス語で「私」の意味。作者は90歳で亡くなるまで、かろやかに歌を詠み続けました。

 

まとめ

蝉の短歌、いかがでしたか。

この夏もたくさんの蝉に出会えますように。蝉の声が聞こえたら、ぜひご自分でも歌に詠んでみてくださいね。

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