立春の和歌と短歌、立春とは2月の4日頃。今年は4日が立春です。
和歌や短歌には、春が来たことを表す「春立つ」との言葉があります。
きょうの日めくり短歌は、立春の日にちなむ短歌をご紹介します。
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立春の短歌
立春の日にちなむ短歌や和歌はたくさんありますが、そもそも立春とは何でしょうか。
「立春(りっしゅん)」は、「二十四節気」の一つで第1番目にあたる。冬の終わり・春の始まりを意味し、春の気配が立ち始める日という意味で「立春」とされる。
立春の前、節分の短歌でもお知らせしましたが、節分は年の暮れ、大晦日でもあったのです。
なので、立春は、季節の一番最初であり、始まりとなります。
和歌では「立春」ではなく「春立つ」
立春の読みは「りっしゅん」。このような音読みの漢字の二字熟語は、漢語というもので、和歌ではあまり使われません。
和歌で使われるのは、「春立つ」という言葉です。
「春が来る」という言い方ももちろんありますが、今回は「春立つ」の使われた歌の方をご紹介します。
袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ
読み:そ
作者と出典
紀貫之 古今集
現代語訳と意味
夏のころ知らず知らず袖がぬれながら、すくいあげた水が、寒い水のあいだ凍っていたのを、立春の今日のあたたかい風がとかしているであろうか
解説
紀貫之の古今集の冒頭の有名な歌。春を詠んだ和歌の代表的な作品でもあります。
季節の経過を盛り込みながら、自身にひきつけた、体感的な春の訪れを繊細に歌います。
この歌の詳しい解説:
袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ 紀貫之
作者は三十六歌仙の一人です。
ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも
読み:ひさかた
作者と出典
作者不詳 万葉集
現代語訳と意味
天の香久山に夕霞がたなびいているのがみえる。いよいよ春が来たのだなあ
解説
春に特有の情景から、春の訪れを感じ取るというストレートで単純、それゆえに明快な内容の歌です。
春立つとききつるからにかすが山消えあへぬ雪の花とみゆらむ
読み:はるたつと ききつるからに かすがやま きえあえぬゆきの はなとみゆらん
作者と出典
凡河内躬恒 後撰和歌集他
現代語訳と意味
春が来たと聞いたので、春日山の頂にまだ消えない雪が花のように見えるのだろう
解説
凡河内躬恒は、紀貫之と並び称せられた三十六歌仙の歌人。
一首の内容は、やや複雑で、春そのものではなくて、春が来たという知らせの、作者の心理的な変化により、見えるものが違ってみるその心持ちに焦点が当たっています。
まだまだ寒い季節に、冷たい雪さえも花に見えてしまう。
「春立つ」春の到来は、そのくらい昔の人の待ちわびるものだったのでしょう。
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心あてに折らばや折らむ初霜の おきまどはせる白菊の花 凡河内躬恒
春たつといふばかりにやみ吉野の山もかすみて今朝は見ゆらん
読み:はるたつと いふばかりにや みよしのの やまもかすみて けさはみゆらん
作者
壬生忠岑 みぶのただみね
現代語訳と意味
立春になったというだけで、吉野山が春霞に霞んで今朝は見えるだろう
解説
立春を詠んだ歌。忠岑は古今集の撰者の一人。
春とは名ばかりの寒さですが、春の到来の期待感で、霞が見えるのではないか、そのようなこころの弾む様子を詠んだものです。
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有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし 壬生忠岑
もろびとの袖をつらぬるむらさきの庭にや春もたちはそむらむ
読み:もろびとの そでをつらぬる むらさきの にわにやはるも たちはそむらん
作者
藤原定家
現代語訳と意味
高貴な人々の美しい着物の袖が並ぶこの庭にも春が来たのだなあ
解説
拝賀の風景を詠んだもの。「むらさき」は高貴な人の着る着物のことです。
他に、藤原俊成にも「九重や玉敷く庭にむらさきの袖をつらぬる千世の初はる」があります。
吉野山かすまぬ方の谷水もうちいづる波に春はたつなり
読み:よしのやま かすまぬかたの たにみずも うちいずるなみに はるはたつなり
作者
藤原定家
現代語訳と意味
吉野山の春霞にかすまないところの谷にも、雪解けの水の波が起こって春が来たことを告げるのだ
解説
藤原定家特有の否定に始まる凝った内容の歌。
「谷水」は、雪解けによる川の水の増水と、それに続く波を表します。
「かすまぬ」という否定語で、吉野山の部分的な春霞の存在を示し、さらに、雪解け後の川の様子を伝えることで、山の情景を次々に提示、吉野山の広さをも示すという工夫が盛り込まれています。
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見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ 藤原定家「三夕の歌」
九重の雲井に春ぞたちぬらし大内山に霞たなびく
読み:ここのえの くもいに はるぞ たちぬらし おおうちやまに かすみたなびく
作者
源実朝 金槐和歌集
現代語訳と意味
わが住まいである雲が幾重にも重なった皇居に春が来たらしい 大内山に霞がたなびいている
解説
「立春の心をよめる」の詞書のある歌。
歌物語「大和物語」に載る「白雲の心得に辰巳になれば大内山というにぞありける」が元歌と思われます。
「九重の雲井」の「雲井」とは、皇居のある所のこと。スケールの大きな歌です。
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源実朝の和歌代表作品10首 短歌集「金塊和歌集」より
きょうは、立春の和歌、「春立つ」の表現を含む短歌をご紹介しました。
まだまだ寒い日は続きますので、皆さまもどうぞ気をつけてお過ごしください。
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