起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ 在原業平の有名な和歌の現代語訳、品詞分解と修辞法の解説、鑑賞を記します。
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起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ
現代語での読み:おきもせず ねもせでよるを あかしては はるのものとて ながめくらしつ
作者
作者:在原業平
※「伊勢物語」の和歌の解説は
出典:
出典:古今和歌集 恋歌3 616
和歌の意味
起き上がりもせず、寝ているわけでもなく夜を明かしては、春の季節のものである雨を眺めながらぼんやりと物思いに耽って過ごしたことだ
句切
- 句切れなし
修辞
- 対句
- 掛詞
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起きもせずの品詞分解
・起きもせず…「起く」連用形+も(係助詞)+せ(サ変)基本形「す」未然形+打消の助動詞「ず」終止形
・「寝もせで」との対句
明かしては
・あかし・・・サ4段基本形「あかす」の連用形接続助詞
・て・・・接続助詞
・は・・・係助詞
春のものとて
・と・・・・・・接続助詞
・て・・・係助詞
意味は「春のものと思って」「…と思って。…して。…ということで」
暮しつ
・「くらす」連用形+完了の助動詞「つ」終止形
解説と鑑賞
古今集 恋歌3の巻頭歌。
結ばれない恋を詠んだのが歌の内容
詞書
この歌の詞書には下のように説明がある
弥生の朔日(ついたち)より、忍びに人にものらいひて、のちに、雨のそぼ降りけるに、よみてつかははしける
意味は
3月1日からこっそりと思う人に会って、そのあと雨がしとしとと降っているときに歌を詠んで贈ったもの
「ものらいひて」は 「物ら言ひて」。
恋の語らいと実際に会ったことを指すと思われる。
和歌の意味
思う相手に逢瀬を遂げることができない男性である作者の鬱屈した気持ちを表す歌。
相手は二条の后とされ人妻であった。
その人の元へ出かけて「ものらいひて」となっているが、会って恋語りをしたのだろうが、思いは遂げられなかったので、物思いにふける作者の様子が描かれている。
「伊勢物語」との違い
伊勢物語においては女性に会った後の、後朝(きぬぎぬ)の歌とされているが、「夜を明かしては」はひと晩ではないので、後朝(逢瀬を遂げた次の朝の歌)ではなく恋の煩悶を指すと思われる。
「ながめ」の掛詞解説
歌の中には「雨」の言葉は出てこないように見えるが、「ながめ」は「長雨」の掛詞。
「眺む」と「長雨」が一時に表現され、「長雨の様子を眺める」との意味になる。
この「ながめ」を「春のものとて」とすることで季節感を出している。
在原業平について
在原業平(ありわらのなりひら) 825年~880年
六歌仙・三十六歌仙。古今集に三十首選ばれたものを含め、勅撰入集に八十六首ある歌の名手。
「伊勢物語」の主人公のモデルと言われる。
在原業平の他の代表作和歌
から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを(古今851)
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは元の身にして(古今747)
名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思う人はありやなしやと(古今411)