わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも 大伴家持  

万葉集

わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも 大伴家持

わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも

大伴家持の有名な和歌、代表的な作品の一つで春愁三首と言われる歌の1首目の現代語訳と句切れと語句について解説します。

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わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも

 

読み:わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとのかそけき このゆうべかも

作者

大伴家持 万葉集19巻・4291

万葉仮名原文

和我屋度能 伊佐左村竹 布久風能 於等能可蘇氣伎 許能由布敝可母

現代語訳

わが庭のわずかな群れた竹に吹く風の音がかすかに聞こえるこの夕べよ

句切れ

句切れなし

語と文法

・わがやど・・・家を差す

・いささ・・・接頭語で「少しばかり」の意味

・群竹・・・竹林 ここでは小さな群れた竹

・かそけき・・・形容詞基本形「かそけし」の連用形

・かも・・・詠嘆の終助詞

解説

大伴家持の有名な歌、代表的な作品の一つで「春愁三首」と呼ばれる歌の1首目の短歌であり、一連は万葉集の19巻の最後の歌となっている。

春愁三首の2首目

春愁三首は以下の通り

 

1首目は、春の風物と悲しさを対称。

2首目は、音の聴覚的なとらえ方で春に湧くそこはかとない悲しみを表す。

3首目は明るい春の景色と対照して、孤独な物思いと悲哀の情を詠う。

 

2首目は1と3の間にあって、「光」という視覚的な要素がなく、さらに「悲し」という感情語は見られず、主観が緩和された内容となっている。

一首の特徴

他の2首と対照して下のような違いがあげられる

  • 光ではなく音、聴覚によってとらえた対象が詠まれている
  • 一首目とは詠まれた時間にわずかな差がある
  • 野原や空と、わが宿の場所の違い
  • 遠景から近景に絞られている

 

歌の内容

三首のうち空間のやや狭い窓から見た家の庭の景色には、憂いの趣が強い。

夕方、群れを成すわずかな竹の、それもかすかな葉擦れの音に耳を傾ける作者の鋭敏さは心の憂いがあってのことだろう。

自らのうちにある思いに心を傾けていると、あたかも心のきしむ音であるかのように外にある竹の音が聞こえてくる。

竹と作者を退治させることによって、作者が置かれた深い孤独感もおのずから浮かび上がってくる。

和歌の背景

この頃の大伴家は藤原氏の台頭によって、それまでの大伴家の地位が不安定となり衰退するなどの政治的な受難にさらされていた。

新潟に赴任をしていた家持はほのかな望みをもって帰郷したが、大伴一族の衰退は厳しく、期待は落胆に終わっている。

春愁三首の作歌の背景には、そのような種類の憂いがあったと推測される。

漢詩の影響

竹やそこに吹く風の音は漢詩に多く、斉の謝朓の影響が指摘されている。

窓前一叢の竹、青翠独り言に奇なり。月光疎にして已(すで)に密、風声起ちて復た垂る―謝朓

 

また、斎藤茂吉も

独居沈思の態度は既に志那の詩のおもかげでもあり、仏教的静観の趣でもある。これも家持の至りついた一つの歌境であった

として同じく漢詩の影響を指摘している。

大伴家持について

大伴家持,肖像画

静神社三十六歌仙より

大伴家持 おおとものやかもち 718-785

奈良時代の政治家、万葉集後期の主要な歌人。三十六歌仙の一人。

大伴旅人の子。坂上郎女は叔母にあたる。没落の途にある大伴家の家長として苦しみを歌に詠んだ。

746年越中守として新潟に赴任,751年少納言として帰京。759年までの歌が残っているが、その後の作品は不明となっている。

長歌46首,短歌432首など収録作品は万葉集の他の歌人と比べて最も多く、一部「歌日記」のような内容があるため、万葉集の編集者の一人と考えられている。

後期は繊細な抒情詠を詠んだところに大きな特色がある。

三十六歌仙の歌人一覧と有名な作品

大伴家持の他の短歌

もののふの八十少女(やそおとめ)らが汲みまがふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花19・4143

あしひきの八峰(やつを)の雉(きぎす)なき響(とよ)む朝けの霞見ればかなしも19・4149

春まけて物がなしきにさ夜更けて羽ぶき鳴く鴫(しぎ)誰(た)が田にか住む19・4141

ますらをは名をし立つべし後の世に 聞き継ぐ人も語り継ぐがね19・4165

この雪の消(け)残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む19・4226

現代語訳:この雪が消え残っているうちに、さあ出かけて行こう。山橘の実が照り輝いているのも見ようではないか

見まく欲り思ひしなへにかづらかけかぐはし君を相見つるかも 18・4120

木(こ)の暗(くれ)の繁き尾の上をほととぎす鳴きて越ゆなり今し来らしも19・4305

ひばり上る春へとさやになりぬれば 都も見えず霞たなびく20・4434

剣太刀(つるぎたち) いよよ研ぐべし 古(いにしへ)ゆ 清(さやけ)く20・4467

うつせみは数なき身なり山川の清けき見つつ道を尋ねな20・4469

初春の初子(はつね)の今日の玉箒(たまぼうき)手に取るからに揺らぐ玉の緒20・4493

水鳥の鴨の羽色の青馬を今日見る人は 限りなしといふ20・4494

池水に影さへ見えて咲きにほふ 馬酔木の花を袖に扱(こき)入れな20・4511

 




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