はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり
俵万智の歌集『かぜのてのひら』より有名な短歌代表作品の意味と情景、表現技法の解説、鑑賞を記します。
はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり 解説
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読み:はなびはなび そこにひかりを みるひとと やむをみるひと いてならびおり
作者と出典
俵万智 『かぜのてのひら』
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現代語訳
花火が続けて打ち上がるその光景に光を見る人と闇を見る人がいて並んでいる
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俵万智短歌代表作まとめ
句切れ
初句切れ
表現技法
- 文語の定型の短歌
- 初句6文字の字余り
- 初句ひらがなと漢字の書き分け
- 対比
鑑賞
現代の歌人、俵万智の歌集『かぜのてのひら』より、花火の情景の歌。
一般には美しいとされる花火だが、見る人によって、その華やかな光に目を向ける人もいれば、背景にある闇を見る人もいる。
そのような対比と、孤としての寂しさが歌の主題である。
歌の情景
作者は誰かと打ち上げ花火を鑑賞中、その相手との心の隔たりを意識して、このような歌が生まれたと思われる。
他の人は心行くまで花火を楽しんでいるが、作者は花火の美しさを眺めながらも心の底にあるわだかまりに目を向けないではいられなかったのだろう。
比喩的な「闇」
歌の「闇」は花火の夜の闇のことであるが、それよりももっと内面的なもの、人の心の中の「闇」を比喩的に指していると思われる。
一首の表現技法
「はなび花火」は、ひらがなと漢字の対比がある。
短歌では同じ歌の中に同じ言葉を2回繰り返す場合に表記をひらがなと漢字をあてることが多い。
この歌の場合は、それだけでなく、「光のはなび」「闇の花火」の光の闇の対比を暗示するものとして、「はなび花火」が置かれていると考えられる。
字余りの効果
初句は6文字で字余りとなるが、あえて置いたのは作者の意図がある。
なお、字余りは、歌の調べを滑らかにせず引っ掛かりを持たせることで、強調するという効果がある。
加えて初句切れなので、「花火」のあとで切れ、「そこに」の代名詞で「はなび」と「花火」の両方につないでいると言える。
「はなび」と「花火」、「光」と「闇」は、人と人との違いとその対比が目的で用いられており、それがこの歌の主題である。
短歌の背景
この時の作者の置かれた状況を推察して、もう少し深い鑑賞を進めてみよう。
『かぜのてのひら』は有名な『チョコレート革命』の前に刊行された第2歌集で、結ばれない恋愛、おそらく『チョコレート革命』で明らかになる婚外恋愛を詠ったものが多い。
夢十夜どうせ結ばれないのならあねおとうとの神話を描く
「おまえとは結婚できないよ」と言われやっぱり食べている朝ごはん
集約すると、結ばれない、つまり結婚ができない恋愛に対しての作者の心の動きが集約されている。
このような背景を持った歌として詠んでみると、花火の歌の内容が良く理解できるだろう。
「人」と「人」として俯瞰した二人を詠んでいるが、作者を含む一組の男女のことともいえる。
※チョコレート革命の歌については
男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす 俵万智
『かぜのてのひら』について
※俵万智の第2歌集。 24歳の早春から28歳の冬の終わりまでの470余首を収録。
題名は『四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら』 からとられた。
『かぜのてのひら』他の短歌
悲しみがいつも私をつよくする今朝の心のペンキぬりたて
海底に鯨の親子が鳴きかわすように心を結べればいい
お互いの心を放し飼いにして暮らせばたまに寂しい自由
こんなにもなめらかに愛を告げられて心ほどよく冷めてゆく午後
わたくしにいかなる隙のありてかく激しき胸に抱かれている
花ことば「さびしい」という青い花一輪胸に咲かせて眠る
「もし」という言葉のうつろ人生はあなたに一度わたしに一度
俵万智プロフィール
俵万智(たわらまち)1962年大阪府門真市生まれ。
早稲田大学在学中より短歌を始める。佐佐木幸綱に師事。「心の花」所属。1987年、第一歌集『サラダ記念日』(河出書房新社)を出版、260万部を越えるベストセラーになり、第32回現代歌人協会賞受賞。歌集のほか、小説『トリアングル』、エッセイ『あなたと読む恋の歌百首』『百人一酒』など著書多数。
俵万智の他の短歌
俵万智の他の短歌の代表作です。
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