万緑の中や吾子の歯生え初むる 作者中村草田男の教科書掲載の俳句の意味の解説、鑑賞を記します。
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万緑の中や吾子の歯生え初むる の解説
読み:ばんりょくの なかやあこのは はえそむる
作者と出典:
中村草田男 「長子」
現代語訳
あたり一面緑萌える中、子どもの葉が生え始めた
句切れと切れ字
切れ字「や」 中間切れ
句切れ 2句目の途中 中間切れ
中間切れとは 解説
俳句で、二句の途中に切れ字や言い切りの表現が含まれるものを「中間切れ」という。
(例:短歌の「句切れ」も参照のこと)
季語
季語は「万緑」 夏の季語
形式
有季定型
その他表現技法
結句 「そむる」の基本形は「そむ」。「そむる」は連用形の連用止め。
解説
中村草田男の句集『火の鳥』
この句の意味
生まれたばかりの乳児に葉が生え始めた、その成長の喜びを、初夏の緑にたぐえて生き生きと表現する。
作者の感動の中心
作者の感動の中心は、授かった子どもに、初めての歯が生えたことへの喜びにある。
子どもが順調に育っていることの喜びと、生命の美しさを、初夏の緑という要素を加えて、視覚的に提示する。
わが子へのいとおしさに加えて、生命の美しさが根底にある。
子ども一人の数本の歯にとどまらずに、初夏の幅広い景色に敷衍することによって、命の不思議さ、力強さを強調することに成功している。
表現技法と構成
構成としては、まず、「万緑」の語を先に提示して、その中にいる、小さな乳児という小さなものに、逆に焦点を狭めていく構成で、あたかも木々や草花のエネルギーが、いっせいに子どもの歯に注がれていくようなイメージをもなしている。
このような焦点づけ、フォーカスの視点の移動にも作者の工夫がみられる。
この句の元となる言葉
作者自身が、この句の元となる言葉は王安石の漢詩の「万緑叢中紅一点」から得たと明かしている。
この句の主題の歯であれば、「緑の中の白一点」となり、緑と白の対比が意識されていたこともわかる。
「万緑」が季語に
また、この句ののち、「万緑」は夏の季語に制定されている。
私自身のこの俳句の感想
子どもにつぶらな真っ白い歯が生え始めるというのは、生命の不思議を感じられる出来事だと思います。季節は初夏、一斉に木々が芽吹いて緑を揺らす中、守られるように自然の中にいる子どもの姿が想像できます。緑の中の子どものイメージは、命を持つものが自然の一員であることを教えてくれます。
中村草田男の他の俳句
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教科書の俳句一覧
各俳句の解説はリンク先の記事で読めます。
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