夏の短歌、夏に詠まれた短歌や、夏を表す作品を有名な作品から集めました。
向日葵や夾竹桃、百日紅、夏の虫である蝉、夏ならではの海やプール、盆踊りや夏祭りなど、夏のモチーフの短歌をご一緒に鑑賞しましょう。
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夏の短歌 近代短歌から
夏の短歌、夏に詠まれた短歌を近代短歌から筆写します。
夏の植物や動物など主題になるものに注目してください。
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向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ
【作者】前田夕暮
【意味】向日葵は金の油を身に浴びたように輝いて、ゆらりと高く立っている。それに比べて、後ろに見える太陽のなんと小さいことか
解説
向日葵というと、必ずこの歌が引かれるくらい有名な歌です。陽光を「金の油」、「ゆらりと高し」の擬音のおうな表現、太陽を小さく配置する効果など、近代においては新鮮な表現が目につきます。
この歌の詳しい解説
向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ 前田夕暮
子どもらが鬼ごとをして去りしより日ぐれに遠しさるすべりの花
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
解説
「鬼ごと」は鬼ごっこのこと。島木赤彦は教員をしていたので、子どもを詠んだ歌が多いです。
島木赤彦の短歌
島木赤彦の短歌代表作品50首 切火・氷魚・太虚集・柿蔭集から
山中のしづけき町に蝉の音の四方(よも))よそそぎてくれ入りにけり
【作者】中村憲吉
【意味】山の中の静かな町に蝉の音の四方から注いで暮れていくのだなあ
解説
四方よ」の「よ」は「…から。…より」の意味。辺り一面降り注ぐような蝉の音の満ちている日暮れの情景を詠んだもの。
おそらく山間部にある憲吉の故郷とその様子でしょう。
蝉の短歌まとめ 万葉集~現代短歌斎藤茂吉,窪田空穂,長塚節,河野裕子,高野公彦他
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めぐり逢う一夜のはなの真白花ひたすらにしてこの夏も咲く
【作者】窪田空穂
解説
何の花かはこれだけだとわかりませんが、月下美人か、あるいは沖縄の夏の風物詩、サガリバナかもしれません。
アンコール・ワットの濠にほてい葵の花うごかして水牛沈む
【作者】佐藤佐太郎
解説
こちらも旅行詠。アンコールワットの堀にほてい葵の水草の花が浮く水に分け入って、水牛が沈んでいくという、いかにもアンコールワットののんびりとした情緒が伝わります。
さ庭べに夏の西日のさしきつつ「忘却」のごと鞦韆(しうせん)は垂る
【作者】宮柊二
解説
鞦韆(しゅうせん)とはブランコのこと。
誰も乗っていないブランコを見て「忘却のような」と作者のとらえ方です。
夏の短歌 現代短歌から
ここから新しい時代の短歌に移ります。
かくて生(よ)は過ぐと思ひつ暑き晝(ひる)よろこびて水に腕うたせつつ
【作者】田谷鋭
解説
暑い夏の昼間に水に腕を打たせている。この身に感じる潤いと生き生きと跳ねる水。
そしてふと「このように生は過ぎるのだ」と思う、作者の思いです。
サルビアの小花散りしく黒土のうるほふごときゆふべとなりぬ
【作者】尾崎左永子
解説
サルビアの小さな赤い花が散って、黒い土が潤うように思える、昼の暑さを過ぎてほっとするような、夏の夕方の情景です。
遠き空に花火のあがる夜なりしがつらぬきがたきことも知りゆく
【作者】大西民子
解説
花火も夏の風物詩ですが、ここではその勢いに自分の心境が対照されて浮かび上がります。帰らない夫を待ってのち、天涯孤独の作者でした。
庭のかたにするどく夜の蝉なけりおびえのこゑはみじかくて止む
【作者】上田三四二
解説
闘病中の作者の鋭い神経によってとらえられた蝉の声なのでしょう。
静まった庭に沈黙する蝉の声は、作者にとっては「おびえ」の声と思われるのです。
夏蝶の屍(し)をひきてゆく蟻一匹どこまでゆけどわが影を出ず
【作者】寺山修二
解説
蝶を引く蟻を俯瞰する作者の視線。どこか厳しさを感じる歌です。
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり
【作者】
寺山修二
解説
海を知らない少女、というのは、まだ海を見たことがない、遠い陸地に住む少女なのでしょう。
その相手に、見てきた海のことを誇らしげに語る少年。「麦藁帽」に鮮烈な夏の光が見えるようです
この歌の詳しい解説を読む
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
作者 俵万智
解説
夏の終わりに、しまおうとした麦わら帽子、そのてっぺんに、押されてくぼみが残っている。
いびづになってしまった球面のそのへこみを見ていると、その夏の思い出の数々がよみがえるという愛執を感じる短歌です。
一期なる恋もしらねば涼やかにはみてさびしき氷白玉
【作者】馬場あき子
解説
一生に一度の恋も知らない、そのような落ち着いて過ぎてきた生を涼しいものと思いつつも寂しいとも思う。
真夏も氷白玉に生を回顧するのです。
この作者の短歌を読む
馬場あき子の短歌代表作品 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
階下る夜の足下に枇杷の実のみのりほのかにもりあがり見ゆ
【作者】小中英之
解説
外階段でしょうか。枇杷の枝に実が上から見下ろされて、そこにほのかな丸みが見える。
持病と共に生きた作者は、孤独と闘病の中にも、美しい歌をたくさん残しています。
はるかなる一粒の日を燭(しょく)としてぎんやんま空にうかび澄みたり
【作者】高野公彦
解説
遠くに小さく見える、点のような太陽を背景に吸えて、その前に大きなギンヤンマを配置した歌。ギンヤンマは蜻蛉の中で最も大きいとされる種類です。
陽に透きて今年も咲ける立葵わたしはわたしを憶えておかむ
【作者】河野裕子
解説
闘病中に死を意識した作者が詠んだ歌。夏のひかりのなかにすっきりと立つタチアオイの花。
しかし、その花も日に透けるようなはかなさであり、いずれの花も一年に一度しか咲きません。
また来年の夏に咲く花を覚えておくように、自分自身をしっかりと記憶に、そしてこの世にとどめようとする作者の思いが胸を打ちます。
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『平成万葉集』第2回 河野裕子・永田和宏夫妻の短歌
母の日傘のたもつひめやかなある翳にとらはれてゐしとほき夏の日
【作者】大塚寅彦
解説
日傘というのは、影を作るためのものですが、「ひめやかな」と作者はとらえる通り、母という以上の官能を感じさせるでしょう。人生の中の美しい光あふれる「夏の日」の回想が象徴的に詠まれています。
われのひかりに選ばむとしてのがしたる夏のひかりの潦(にはたづみ)あり
【作者】荻原裕幸
解説
上の作者の回想とも似ていて、夏の光を選ぼうとして逃してしまった自分の象徴として捉えています。「にはたづみ」というのは水たまりのことです。
あの夏と呼ぶべき夏が皆にあり喉うごかして氷みづ飲む
【作者】小島ゆかり
解説
誰にしも「あの夏」と思い出して記憶に手繰り寄せられるような夏がある。言われてみると、ああ本当だなと思うのです。
やはり体感的にも暑さが格別な夏は、記憶にもくっきりとした印象を保ちやすい季節なのかもしれません。
夏の短歌のテーマ一覧
夏の短歌のテーマ一覧です。
読みたいテーマに合わせてお選びください。
夏の短歌、いかがでしたか。
今年はとりわけ暑い夏となりましたが、お体を休めつつ、夏の良いところも見つけて、すてきな歌を詠んでみてくださいね。