万葉集の代表的な歌人とその代表作品を一覧にまとめました。
有名な歌人は額田王、柿本人麻呂、山部赤人、大伴旅人、山上憶良、大伴家持などです。
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「万葉集」とは
「万葉集」というのは古代の和歌を集めた和歌集です。
詩を集めたのが詩集ですが、短歌、それよりも長い長歌、短歌に似ているが577577の旋頭歌など、4536の歌が収められています。
編者ははっきりしていないのですが、大伴家持という人が、中心になってまとめられたのではないかと考えられています。
天平宝字3 (759) 年までの歌が収められており、成立の時期は奈良時代、日本最古の和歌集です。
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万葉集とは 基礎知識まとめ
万葉集の歌人について
万葉集の面白いところは、それ以外にも、皇族、貴族、官僚歌人といった、その時代の身分の高い人たちだけではなく、農民など一般民衆の歌も収められているというところです。
そして、当時の朝廷があった大和の国だけではなく、東歌(あずまうた)・防人(さきもり)歌などの、地方の歌も集められています。
現代ならばどんな遠くの離れた地からも歌を集めるのは難しくないことですが、当時としてはたいへんなことでもあり、めずらしいことでもあったでしょう。
万葉集の代表歌人
有名な「歌人」として知られているのは、下のような人たちです。
- 額田王(ぬかたのおおきみ)
- 柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
- 山部赤人(やまべのあかひと)
- 大伴旅人(おおとものたびと)
- 山上憶良(やまのうえのおくら)
- 大伴家持(おおとものやかもち)
- 高市黒人(たけちのくろひと)
- 高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)
ここから代表歌人と、その歌を掲載します。
額田王 (ぬかたのおおきみ)
額田王は、万葉集初期の代表的で優れた女性歌人です。
万葉集に収録された和歌全作品は12首あります。
額田王の代表作
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
読み:あかねさす むらさきのいき しめのいき のもりはみずや きみがそでふる
万葉集 1-20
現代語訳
紫草の生えているこの野原をあちらに行きこちらに行きして、野の番人がみとがめるではありませんか。あなたがそんなに私に袖をお振りになるのを
※この歌の詳しい解説は
蒲生野問答歌「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」の解説
額田王の他の和歌
- 秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の宮処の仮廬し思ほゆ
- 熟田津に船乗せむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな
- 三諸の山見つつゆけ我が背子がい立たせりけむ厳橿が本
- 三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや
- 君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
- 古に恋ふらむ鳥は霍公鳥けだしや鳴きし我が思へるごと
- み吉野の玉松が枝はしきかも君が御言を持ちて通はく
- かからむとかねて知りせば大御船泊てし泊に標結はましを
大伴家持(おおとものやかもち)
万葉集を編纂した主要な歌人が大伴家持と言われています。
万葉集の収録歌の最多の歌人です。父は大伴旅人です。
代表的な作品は「春秋三首」と呼ばれる後期の作品です。
大伴家持の代表作
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも
出典 万葉集19・4290
現代語訳:
春の野に霞がたなびいてもの悲しい。この夕方の光の中で鶯が鳴くよ
他の二首は
わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも
うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば
解説記事は
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも/大伴家持「春愁三首」の独自性
万葉集の最後の歌も大伴家持作です。
万葉集の最後の歌として、大伴家持が自ら収録しました
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よごと)
読み:あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと
出典
万葉集20巻 4516
現代語訳
新しい年の初めの初春の今日降る雪のように、積もれよ、良いことが
この歌の解説を読む
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事/大伴家持/万葉集解説
大伴家持の他の和歌
- あしひきの山さへ光り咲く花の散りぬるごとき吾が大王(おおきみ)か
- ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺にをればいぶせかりけり
- ふりさけて三日月見れば一目見し人の眉(まよ)引き 思ほゆるかも
- 珠洲(すす)の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
- あぶら火の光に見ゆる我が縵(かづら)さ百合の花の笑まはしきかも
- 天皇(すめろぎ)の御代栄えむと東なるみちのく山に金(くがね)花咲く
- この見ゆる雲ほびこりてとの曇り雨も降らぬか心足(だ)らひに
- 雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむ愛(は)しき子もがも
- 春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出立つをとめ
- 見まく欲り思ひしなへにかづらかげかぐはし君を相見つるかも
- 石麻呂に吾れもの申す夏痩せによしといふものぞ 鰻(むなぎ)とり食(を)せ
大伴家持の代表作を一覧で読むには
柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
万葉の古代日本を代表する大歌人が柿本の人麻呂です。
古今集の序文で紀貫之によって六歌仙に選ばれています。
柿本人麻呂の代表作
その代表作は
東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
読み:ひんがしの のにかぎろいの たつみえて かえりみすれば つきかたぶきぬ
出典
万葉集 1-48
現代語訳
東の野に陽炎の立つのが見えて振り返ってみると月は西に傾いてしまった
※この歌の解説
東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ/柿本人麻呂/万葉集解説
柿本人麻呂の他の和歌
※柿本人麻呂の代表作を一覧で読むには
山部赤人(やまべのあかひと)
山部赤人は初期万葉集の代表的な歌人の一人です。
三十六歌仙の一人で、その代表作は百人一首にも採られています。
柿本人麻呂と共に「歌聖」(かせい)と呼ばれ、赤人の和歌はいずれも名作とたたえられています。
山部赤人の代表作
田子の浦ゆうち出でてみればま白にぞ富士の高嶺に雪は降りつつ
読み:たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりつつ
作者
山部赤人 万葉集 3-318 新古今集675 百人一首4番
現代語訳
田子の浦の海岸を先の方まで歩いて行ってそこから見ると、真っ白に富士山の高嶺に雪が降り積もっていることだ
解説記事は
山部赤人の他の和歌
- 若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る
- み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも
- 我も見つ人にも告げむ勝鹿の真間の手児名が奥つ城ところ
- 春の野にすみれ摘みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にけり
- あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鶯の声
- ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く
※山部赤人の代表作を一覧で読むには
大伴旅人(おおとものたびと)
大伴家持の父。
元号令和の元になる「梅花の歌」の序文を記した作者です。
大宰府に赴任後、歌会を催し、そこで詠まれたのが梅花の歌です。
大伴旅人の代表作
我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
読み:わがそのに うめのはなちる ひさかたの てんよりゆきの ながれくるかも
現代語訳
私の庭に梅の花が散っている。あたかも空から雪の舞い下りてくるかのようだ
大伴旅人の他の和歌
大伴旅人「酒を讃むる歌」の一連、「亡妻挽歌」全11首 が有名でよく知られています
世の中は空しきものと知る時しい世よますます悲しかりけり 5巻793
昔見し象の小川を今みればいよよさやけくなりにけるかも 3巻316
愛(うつく)しき人のまきてししきたへの我が手枕をまく人あらめや
我妹子が見し鞆之浦(とものうら)の室の木(むろのき)は常世にあれど見し人ぞ亡き
※大伴旅人の代表作を一覧で読むには
山上憶良 (やまのうえのおくら)
山上憶良は子どもの歌や貧しさを主題にした歌を詠むなど、万葉集でも特徴的な歌人です。
貧窮問答歌(ひんきゅうもんどうか)、令反惑情歌(まどへるこころをかへさしむるうた)、思子等歌(こらをおもふうた)、哀世間難住歌(よのなかのとどみかたきことをかなしぶるうた)など独自の観点から漢詩の影響を受けた短歌や長歌が有名です。
山上憶良の代表作
銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
読み:しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも
出典
「万葉集」803 反歌
現代語訳
銀も金も玉も、いかに貴いものであろうとも、子どもという宝物に比べたら何のことがあろう
山上憶良の他の代表作
※山上憶良の代表作を一覧で読むには
高市黒人(たけちのくろひと)
高市黒人は旅を詠んだ歌に特徴があり、「漂泊の歌人」とも呼ばれます。
万葉集の中でも愛好される歌人の一人で、収録歌は全部で19首あります。
高市黒人の代表作
古の人に我れあれや楽浪の古き都を見れば悲しき
読み:いにしへの ひとにわれあれや ささなみの ふるきみやこを みればかなしき
出典
万葉集1巻・32
現代語訳
私は古の人間だからだろうか。近江の古い都を見るとこんなにも悲しいというのは
解説ページ
高市黒人の他の代表作
いづくにか船泊(は)てすらむ安礼(あれ)の崎こぎ回み行きし棚無し小舟 1.58
いづくにか我は宿らむ高島の勝野の原にこの日暮れなば 3.275
妹が我れも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる 3.276
※高市黒人の19首を一覧で読むには
高市黒人の万葉集の全19首短歌と特徴「詩情豊かな抒景歌と孤愁」
高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)
高橋虫麻呂は短歌の他、長歌も多く詠んだ歌人。
手児名の歌、筑波山の歌垣の歌もよく知られています。
高橋虫麻呂の代表作
われも見つ人にも告げむ葛飾の真間の手児名が奥津城処
読み:われもみつ ひとにもつげん かつしかの ままのてこなが おくつきどころ
出典
万葉集 432
現代語訳
私も見た。人にも言おう。葛飾の真間の手児奈を埋葬したこの墓のことを
歌垣の歌は
作者と出典:
高橋虫麻呂 万葉集9巻 1759
この歌の現代語訳
鷲が生息する筑波山の裳羽服津のほとりに、男女が集まって歌い踊る嬥歌(かがひ)に、人の妻も私も交わろう。
私の妻にも、遠慮なく声をかけよ。この山を収める神様のいる昔から、許されていることであり、きょうのこの、嬥歌の日だけは、見苦しいとみずに、とがめずにあれよ
代表的な歌人以外にも
- 大津皇子
- 志貴皇子
- 大海人皇子
- 草壁皇子
- 有間皇子
- 聖武天皇
- 天智天皇
- 中皇命
- 舒明天皇
- 橘諸兄
らの歌もエピソードと共によく知られている有名な歌があります。
上記の作者の作品は下の記事から読めます。
あしひきの山のしづくに妹待つと我立ち濡れぬ山のしづくに 大津皇子
石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我れ恋ひめやも/大海人皇子
家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る 有間皇子
秋の日の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも 聖武天皇
秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ 天智天皇
たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野 中皇命
万葉集の女性の代表歌人
万葉集の女性の代表歌人については
持統天皇、坂上郎女、鏡王女、狭野茅上娘子、大伯皇女、笠郎女、石川郎女らがいます。
春過ぎて夏きたるらし白妙の衣干したり天の香具山
読み:はるすぎて なつきたるらし しろたえの ころもほしたり あめのかぐやま
作者
持統天皇 1-28
現代語訳
春が過ぎて夏が到来したようだ 天の香具山に白い夏衣が干してあるのを見るとそれが実感できる
他の女流歌人の代表作はそれぞれ下のような歌が有名です
風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ 鏡王女
君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも 狭野茅上娘子
恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば 大伴坂上郎女
吾を待つと君が濡れけむ足引の山のしづくにならましものを 石川郎女
上記の代表的な恋愛の歌は下の記事で一覧で読めます
まとめ
以上、万葉集と、その代表的な歌人の簡単な紹介でした。
万葉集には、いわゆる貴族だけではなく、一般の人の詠んだ歌、それから、作者はわからないが良い歌として収録されているものも他にもたくさんあります。
ぜひ「万葉集」の本や入門書などをお手に取って読んでみてください。